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2-6 試練
「やっぱり人間なんて野蛮です。似た姿をしていても天魔の家畜でしかない。それも従順な羊ではなく、モラルの欠片もない野獣です。下等動物です! 救いがない!」
ショウは一気に吐き出した。付着した血は洗い落としたものの、ショックで夕食も喉を通らず、興奮して部屋をグルグル歩き回っている。
「よくしゃべるな。元気になったようでなによりだ」
アスタロトは用意してもらったおやつを楽しんでいる。デザートに出された焼きたての林檎のパイが美味しくて、追加を頼んだのである。林檎丸ごとをパイ皮で包んだもので、甘酸っぱい林檎にサクサクのパイが実によく合う。ショウは驚愕の眼差しを向けた。
「よく食べられますね、いつも少食のくせに」
「あんなの魔界では日常茶飯事だ」
アスタロトはショウの織細さを嗤った。
「この城では伯爵の言葉通り刃傷沙汰が絶えないらしい。巻込まれる可能性は充分ある。そうならないうちに、さっさと課題を終わらせて欲しいものだな」
「終わらせたいですよ私だって! ただ相手はあの伯爵ですよ?」
ショウは深々と溜め息をついた。
「まあ、成績優秀なお前のことだ、この実習の得点が最低ラインでも進級ぐらいできるだろう。早いところカタをつけちまえ」
「駄目なんです。恥ずかしながら他にも思うようにならない教科があって、今回は頑張らないと」
「へえ、何が苦手なんだ」
ショウは悔しそうに告白した。
「アスタロト様に教えて頂けないのが残念ですが⋯⋯治癒魔法です」
ショウが屈辱的だったのも無理はない。治癒魔法こそ重要必須科目、天使とくれば治癒魔法なのである。ただし悪魔に選択儀務はない。
「治癒魔法ねえ」
アスタロトは面白くもなさそうにくり返し、お茶を飲んだ。ショウも黙り、ベットの端に腰を下す。
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