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全く、失態の連続だった。
ショウは幼少の頃より優秀と言われ、魔天学院でもその優秀さが通用してきた。気質が天使向きではない自覚はあるが、そのぶん能力では他に負けない自信がある。
それがどうだこのザマは。
ショウは広間で腰を抜かした事を思い出すだけで顔から火を吹きそうだった。馬鹿にしきっていた人間に威圧され、相手にもされず、悲鳴を上げるばかりで結局最後はアスタロトに助けてもらったのだ。
これまでの一生を遡ってもここまで恥をさらした経験はない。
「お前すらっとしてる割に重いんだな。部屋まで運ぶのひと苦労だったぞ。ここの兵士は伯爵の指示がないと手伝いもしない。あきれた徹底ぶりでな」
アスタロトは大袈裟に肩を揉んでみせた。むろんからかっているだけだ。魔族の筋力は人間とは比べものにならないほど優れていて、彼のように華奢な体でも充分機能する。しかしショウはさらに赤くなって頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。たかが人間の死体如きに天使ともあろう私が、動転するなど情けない」
「いいんじゃないの、素直で」
アスタロトは普段冷静沈着なショウが慌てる様子を見せるのが楽しくて仕方ないらしい。ショウは意を決してきっぱり宣言した。
「おまかせ下さい、アスタロト様。私は明日からさっそく伯爵の説得にかかります。あの暴君を教会に連れていき、罪を思い知らせて、心を入れ替えてみせます。澄み切った魂になるよう全力で立ち向かいます!」
「はーん、すごい気合いだねー。まあ、頑張ってちょーだい」
アスタロトはカップに残っていたお茶を最後まで飲み干すと、コロリと横になった。たちまち寝息が聞こえてくる。
取り残されたショウは腕を組み、天を仰ぐしかなかった。
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