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さて翌朝。
「この領地で教会はどちらにあるんでしょう」
さっそく汚名を返上すべく、ショウは朝一番で召使いに尋ねた。二人の身の回りの世話をしているメイドはまだ幼さの残る少女で、ショウの質問にカーテンを開ける手を止めて答えた。
「教会でしたら、城のなかにございます」
「城の中に?」
ショウは意外な思いで問い返した。少女はこっくりと頷いた。
「伯爵さまが鍵をお持ちです。今は使っておりませんから」
「ずっとですか」
「ええ、伯爵さまが城主になられてからは」
彼女は窓を開け、城の中庭に建っている白い建物を指さした。それは朝日の中で、繊細な貝殻のように光っていた。貴重な硝子がふんだんに使われているだけでなく、建築としてもかなり技巧を凝らしたものだ。
「ずいぶん立派ですね」
「先代の伯爵さまが建てられたご自慢の教会だそうです」
「あんなに立派なものをどうしてほったらかしているんだろう」
「さあ⋯⋯」
少女は言葉を濁した。この城の中で伯爵に関することを発言するのは危険だった。気まずい沈黙が流れる。
「んー、なんだ、寒いな」
冷えた空気がアスタロトを起こしたらしい。目覚めの悪い不機嫌な声がした。少女はすぐに窓を閉めるとお辞儀をし、救われたように出ていった。
「アスタロトさま、聞き込みの邪魔をしないでください!」
ショウはベットを振り返った。アスタロトはようやく上半身だけ起こして生あくびをしている。
「聞き込み? あんなヘタクソな聞き方あるもんか。あれじゃあ子供だって口を割らないぞ」
ショウが憮然としていると、アスタロトは再びベッドにもぐり込んだ。
「朝の日ざしはきつくてかなわない。俺は寝てるから、お前、勝手に説得してろ。そのほうが邪魔が入らなくていいだろう?」
「採点はどうするんです」
「大丈夫だ。お前の腕じゃあの伯爵を説得するなんてまだまだ先の話だからな」
言い切られてれてショウは、一人で部屋を出た。反論したかったが、いまの彼にそんなに大見栄を切るほどの余裕はない。
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