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2-7 夜
夜がこんなに待ち遠しかった事はない。ショウは長い長い一日を終えて、しみじみとそう思った。約束通り伯爵にくっついて回ったはいいものの、疲労困悠していた。
部屋に戻るなり寝椅子に転がり青息吐息である。
「何をへばってるんだ」
そんな人の苦労を知ってか知らずか、日暮れと共に起きたアスタロトは面白そうにショウの顔を覗き込んだ。元気いっぱいである。
「私のことは放っておいて下さい」
「そうはいかん。お前、俺に報告義務があるのを忘れたのか」
「今日は伯爵と親睦を深めました、以上、終わり。さあ、夕飯食べにいきましょう、伯爵が待ってます」
「お前なあ⋯⋯」
アスタロトは呆れた声をだした。
「親しくなるのは結構だが、えらく態度が遮うじゃないか。人間なんて家畜同然とか言ってたくせに、まるで召使いみたいに後をついて回って」
「まずは敵を知ることです」
ショウは言い訳するように頷いた。そうとでも思わなければやっていられなかった。朝から晩まで伯爵に言いたいように言われ、無能扱いされ、プライドはボロボロである。
「伯爵ほど信仰から違い人間はいないんじゃないかと思いますよ、たいした石頭だ」
ショウはせめて毒づいてみせた。
食堂は、昨日と同じように兵士が護衛を固めていた。
長いテーブルの上座に伯爵はすでに着席している。テーブルクロスは清潔で糊がきいていたが、燭台の灯りのほかには何の飾りもなかった。アスタロトとショウが席に着くと、待ち兼ねたように料理が運ばれてきた。
「昨日とは兵士の顔ぶれが違うな」
ナフキンを膝に乗せながら、アスタロトはショウに耳打ちした。するとショウの返事の前に、遠くの伯爵が答えた。
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