2-7 夜

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 重苦しい食事が終わって部屋に戻ると、ショウはベッドに横になった。 ちょっとだけのつもりだったが、明日こそは、明日こそは、と考えているうちに、ぐっすりと寝入ってしまった。 「なんだ、つまらん」  だがそうなると、今度はアスタロトが面白くなかった。  ショウと違って、彼は昼間グウグウ寝ていたから、体力が漲っている。それに魔族の体質は夜が活動時間だ。満月も美しく、まさに夜はこれからなのに退屈で仕方がない。 「魔法の研究でもしたいところだが、見つかると面倒だし」  アスタロトは思案した。どう見てもショウはちょっとやそっとでは起きそうもない。そもそも監督役など研修生のやることを見守っているだけでたいした仕事はないのだ。能動的なアスタロトがショウの研修が終わるまで、何もしないでいられるはずもない。  とりあえず、城の探検でもしてみるか。  アスタロトはこっそり部屋から出た。貧しい国とはいえ、城ともなれば部屋数も百室以上ある。いい暇つぶしになるはずだった。  絨毯がうまい具合に足音を吸収してくれた。城は寝静まっていて誰とも行き合わない。廊下に点々と備えつけられた燭台の蝋燭の灯りで自分の影だけが長く伸びている。  アスタロトはキョロキョロしながら部屋を覗いた。召使いは苛酷な労働の埋合せで死んだように眠っている。  大部分の部屋は締切りだったが、かつては賑やかに人の出入りもあったのか、客間が多かった。しかし今は家具にカバーがかかり、肖像画まで埃っぽい。  なぜ廊下を歩いているだけでそんなことがわかるかといえば、悪魔の視力が特別だからである。ドアを開けなくとも、部屋の中ぐらい簡単に透視できるのだ。  しかし便利な反面、見えすぎて困る場合もある。 「ああ、うっとうしい」  アスタロトはたまりかねて闇の中、手を払った。悪魔の彼にはこの城に存在する山のような幽霊まで見えてしまうのである。昼間は多少鳴りをひそめているが、夜中ともなれば彼らも活動時間だ。
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