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「いっそ神社にお参りでもしてみようか。でも、いくら神様の心が広くても悪魔を呼び出してくれなんて怒られちゃうよな……はー、まったくやりづらいったらないよ」
悩む克己の携帯が鳴った。
「あ、ヨネさん? どうしたの」
電話の向こうから開き慣れたドラ声が響いてくる。
「え? 馬に羽根が生えてる? そんなのあり? あ、いや、決してばーちゃんを疑っている訳では」
相変わらず不思議が止まらない。村人ももはや面白がっている様子である。現代日本から取り残されたド田舎のせいか、この村の住人は言い伝えやあやかしに対してさほど抵抗がないらしいのである。困った困ったと言いながら全然順応している。
「馬なら農協にでも引き取ってもらいますか? え、角もある? じゃ、もしかしてそれって」
びしっ。
克己はガラスが軋む音に振り返った。部屋中の窓という窓から圧倒的な量の光が差し込んでくる。慌てて窓を開け放ってみると影になっているものが一切ない驚異の明るさだった。
「ペガサス」
生唾をのんだ。天馬は立派な白い翼で空を飛びまわっている。
『見えるー、芳賀さーん、今飛んでるっしょー。この馬、随分高く飛ぶねえ。わしの言った通りだべさ。聞こえとるー? 芳賀さんやー』
受話器から元気のいいヨネさんの声が響いてくる。
立ち尽くす克己の耳から耳へ、その声はすり抜けていった。
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