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それにしても半端な量ではなかった。右を左も無念そうな幽霊でウジャウジャしている。伯爵の処分は凄まじいペースで行われているらしい。
「お前はどうした。あーそうか、はあはあ、そりゃ大変だったな」
もちろん話もできる。会話に飢えていたアスタロトは城の探検を一時中断し、手近な幽霊と世間話を始めた。
「ふーん、なるほどそれはひどい。うんうん、ああ、わかった割り込むな、順番にな。ほう、それで」
幽霊の大部分は伯爵がらみで殺された者達なので、城の内情を実に詳しく話してくれる。幽霊達は口々に伯爵の仕打ちを訴えた。
「大変だったなあ、それは」
アスタロトはすっかり和んで相づちを打っていた。数が多いので話しも長くなるのである。と、そこへ。
「ずいぶん、賑やかな一人言だな」
伯爵が怪訝な顔で後ろに立っていた。アスタロトは悪びれもせず、やあ、こんばんは、と言った。とりあえずそれ以外に言い様がない。伯爵は凄んだ。
「昼間寝ていたのは、夜中に城を調べるためか」
「俺は特異体質で、夜のほうが体調がいい」
伯爵は疑り深そうにアスタロトをねめつけた。
「便利な体質だ」
「そちらこそこんな夜中に巡回か?」
「さっそく聞き込みか」
アスタロトは、煩わしそうに首を横に振った。
「義理で聞いてみただけだ。そんな面倒なことなんてしなくても、この城の事は、まあ大抵知ってるし」
伯爵の目付きが変わった。
「どういう意味だ」
「伯爵は幽霊を信じるか?」
愚問だったらしい。伯爵は軽蔑しきった眼差しでアスタロトを見た。
「お前、頭がおかしいのか。それともペテン師か?」
「生憎そのどちらでもない。ただ知っているだけだ。例えば伯爵は夜中に抜き打ちで城を調べて、部下の密談を防ごうとしている。あんたが病的に反逆を恐れるのは、過去に痛い目にあっているからだ。先代の領主だった父は部下の裏切りにあって死に、母を殺され、挙句、自分は幽閉されて、領主の座に返り咲くまでに辛酸を舐めた。その経験が身に染みているからだろう」
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