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「この私を前に、よくよく無礼な言い方をする。文官は世の動きに鈍感だから仕方あるまいが、それにしてはお前は血生臭いし」
伯爵は一気にワインをあけた。酒にはあまり強くないらしく、日に焼けた頬に赤味が差している。
「そういえば今日、ショウ殿と剣を交わした時、突然腕がままならなくなったが、彼もお前と同じように特別な力があるのか」
「あー……」
アスタロトはこめかみを押さえた。
ショウの名前が出てきてようやく彼は自分の立場を思い出したのだ。
ついうっかり気ままに振る舞ってしまったが、ショウより伯爵に深く接触したらまずいに決まってる。監督は手出し無用が鉄則なのだ。
「うーん⋯⋯」
「どうした」
アスタロトは困った様子で切り出した。
「この術の事は、ショウには内密にしてもらいたいんだ。こうして話をしていることもできれば言わないでもらいたい。何というか……つまりあいつは口煩くて、私が人前で術を使うと絶対にお小言が始まる」
「なるほどそれは煩そうだ」
伯爵は、アスタロトがショウに説教をされている光景を想像して笑った。
笑うのは久しぶりだった。
「内密にするのはかまわん。だが交換条件だ。明日の夜もここで話相手をしてくれ」
伯爵は重ねて言った。
「夜は長くて⋯⋯長過ぎて困る」
アスタロトは頷いた。交渉成立だった。
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