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伯爵はかつて彼の祖父が罪人を閉じ込めるために作った石の牢獄に幽閉された。堅牢で分厚い石の壁に囲まれ、一か所だけ握りこぶし大の窓がある。
その窓からは叔父が悠々と暮らしている様子が見えた。
叔父はすべてを伯爵から奪い、幸せの絶頂だった。
伯爵は協力者が現れるまでじっと耐えた。
父が裏切りによって失脚したように、いつかまた叔父を裏切る者が出る。その裏切り者にとって、正当な領主の血筋である伯爵は利用価値がある。
その時こそ必ず生きてこの牢獄を出る。伯爵はその望みに賭けた。
年月が経ち、時はきた。命懸けの脱獄をした伯爵は機会を逃さず、叔父を討った。
伯爵は正式に領主となった。そこに至るまでに十年以上の月日が経過し、子供だった伯爵はすでに青年だった。
ほぼ同じ高さにある城の屋上の景色は、彼が長年見つめてきた牢獄からの眺めに等しい。あの頃と違って鉄の格子が視界を遮ることはなかったが、それでもなぜか、ふいに胸苦しくなる。
伯爵は、深呼吸して剣を掴み直した。
稽古の合間の休憩にしては少し休みすぎたようだ。
「さあ、ショウ殿、続きに入ろう」
「どうぞ」
ショウは疲れも見せずに構えを取った。ピタリと決まったその動きに伯爵は驚きを隠せない。昨日まで素人同然の剣の扱いをしていたショウが、一夜明けたらべら棒にうまくなっていたのだ。おかげで今日は何度対戦しても決着がつかない。
「どんな特訓をしたのか知りたいものだな」
「きのうはまだ長旅の疲れで調子がでなかったのです。これが実力です」
ショウは自信満々に徹笑んだ。もちろん魔法のおかげである。
減点は痛いが実力だと死にかねないので、今日は最初から魔法を使う事にしたのだ。おかげで伯爵と互角である。
「アスタロト殿は今日も寝ているのか」
素早く動きながら、伯爵は言った。
「ええ、虚弱なんです」
ショウもかわしながら、通当な事を言う。
虚弱と聞いて伯爵はかすかに笑った。それを機嫌の良さと勘違いしたショウは思い切って切り出した。
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