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ショウはちらちらと伯爵の様子を伺った。伯爵は目を凝らしていたが、だから何だといわんばかりに腕を組んでいる。
おかしいな……なんで全然平気なんだ?
ショウは怪訝そうに反応を伺った。無念そうな生首が目の前である。
悲鳴を上げろとは言わないが、せめて顔色が変わるぐらいのリアクションはあってもいい。
しかし、残念なことに伯爵は昨日のアスタロトとのやりとりで免疫ができてしまっていた。仕掛けはどこにあるのだろうなどと、手品を見るように観察している。
「これはお前の仕業か? 変わった芸だな」
「とんでもない! きっと伯爵に伝えたい事があるのです。ごらんなさい、この辛そうな顔」
ショウは動じない伯爵にやきもきした。煽るように亡霊の顔を指さすが、伯爵は睨み返すばかりである。ショウはさらに魔法を追加した。またしても減点されるが、ここまできたら引っ込みがつかない。
(レ、オン⋯⋯)
亡霊は苦しそうに声を絞り出した。
(⋯⋯レオン、殺生を重ねてはならん⋯⋯)
「ほう、声もでるのか」
伯爵は馬鹿にしたように、苦悶する父の姿を眺めていた。ショウは重なる誤算に気が重くなりつつも、とりあえず予定の流れにのる。
「これは大変! 伯爵のなさり方に御心を痛めておいでのようだ」
言いながら、伯爵を横目で見る。伯爵は肩をすくめた。
「こんな無能な男が何を感じようが私の知ったことではない」
「伯爵、仮にもお父上の事を出来損ないのように言うのは」
「この男の平和主義のために、私がどれほど危険な目に合ったと思っているんだ。肉親に裏切られるなんて間抜けもいいところだ」
(レオン、お前は間違っている)
幻が伯爵に迫る。伯爵は何のためらいもなく剣を抜いた。
「目障りだ」
「伯爵、」
「間違っているのはお前だ。だからこうして亡霊になった。敵も、猿のようにやかましい民衆を手なずけるのも、剣一本で事足りるというのに」
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