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(レオン、違う、違う違う違う違う違う違う⋯⋯)
「消えろ」
伯爵は剣で父の頭を真っ二つに割った。像が歪む。
(違うぅ、違う違う違う違う違う違う⋯⋯)
「うるさい!」
伯爵は怒鳴ったが、幻影は壊れた機械のように責め続ける。そのたび伯爵は剣を降り下ろした。
ショウは気持ち悪くなってきた。伯爵は親に特別な感傷はないらしい。幽霊に対する恐怖心も感じられない。
「やめてください! 幻とはいえ、あなたの父親でしょう」
「ふざけるな、どうせお前が見せているんだろう。お前たちは術を使って私をからかっているだけだ。騙されるか!」
伯爵は向き直ってショウの胸倉をつかんだ。
ショウは伯爵の迫力に圧倒された。怒りという情念が炎となって体から吹き上げているように見えた。天界でも魔天学院でも、いままで出会ったどんな生き物も、こんな烈火のごとき怒りをぶつけてくる相手はいなかった。
「お前は私に何を言いたいんだ。道徳? 殺生をするな? そんな呑気な生活はここにはない。叔父を殺さなければ私は死ぬまで牢獄暮しだったし、逆らう民衆にトドメを差さなければ寝首をかかれる」
「く⋯⋯っ」
ショウは歯をくいしばって、伯爵の腕を払おうとした。だが伯爵はさらに強くショウを揺さぶった。
「さっさとこのふざけた幻を消せ! 私は間違っていないと言え!」
「嫌です」
「言わないか!」
「間違っているものを間違っていないとは言えない!」
伯爵はぎりぎりとショウのシャツを引っ張っり上げた。絹が裂ける。ショウは殴られるかと思って目をつぶった。
だが、伯爵は何もしなかった。そして荷物を放り出すようにショウを突き飛ばした。
「⋯⋯伯爵?」
ショウはこわごわと目を開けた。
伯爵は答えずに、もう馬に向かって歩き出していた。
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