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2-9 告白
「ふーん、そりゃお前、まだ進歩じゃないか」
「どこがです?」
ショウは鬱蒼と顔をあげた。
墓地の一件以降、伯爵に無視されて昨日の倍も疲れている。部屋に戻ると、一気に力が抜けてソファーに沈んでしまった。
「言い過ぎぐらいでいいんだ。あの伯爵は今まで誰にも言われなさ過ぎたんだから。思う存分ケンカしろ」
一方、アスタロトは今日もだらだらと呑気に過ごしたらしい。魔法書片手にベッドに転がっている。気楽さが顔にでて血色もいい。
「だって親の頭を真っ二つですよ、あの人には情が欠落してるとしか思えませんよ」
「欠落じゃない。何も知らないんだ」
「教えなくたって自然とそういう感情って湧いてくるものでしょう?」
「たしかに資質は重要だが環境因子も無視できない。特にその境遇が特殊だった場合、なおさら」
アスタロトはようやく本を置いて、ベッドから体を起こした。
「伯爵のデータは渡しただろう。だったらもう少し、想像力を働かせろ。できそこないの学芸会で懐柔されるほど伯爵は甘くないぞ」
ショウはばつが悪そうに座り直した。アスタロトは偉そうに声を高くする。
「監督として言わせてもらうが、ここまでのお前のやり方はインチキだ。剣の勝負も墓場の幻も詐欺まがいの手口じゃないか。なんのために魔力を封印されていると思う。魔法は最小限にしておくべきだ」
「かなり減点されてしまったでしょうか」
「減るほど点数をかせいでないだろう」
ショウはがっくり肩を落とした。時期外れに実習を頼んだせいで、とんだ貧乏くじを引いてしまったのかもしれない。
「お前、あの伯爵に当たったのが不運だと思ってるだろう」
アスタロトはニヤニヤと笑っていた。本当に鋭い。
「誰でも自分の課題が一番大変だと思いたいものだ。まあ、頑張るんだな。慈愛あふれる天使としては手ごたえのある相手じゃないか」
ショウはうつむいた。その動作には、からかわれただけの苛立ちとは違う色合いが混じっている。
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