大洪水の前

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 2028年の話である。  あらゆる性的な傾向が認められて、世界的に同性婚が認められて。日本は最後まで同性婚を認めていなかった。しかし、ついに先月、法律で認められるようになった。同性愛だけではなく、小児性愛、獣姦も「多様性」という言葉の元、法律で認められていた。  今は男女の結婚自体が少数派になり、子供も減っていた。  同時に性犯罪も増加し、世界は混沌としていた。  そんな世界になってから、気候もおかしくなっていた。毎日雨が降り、農作物も取れなくなり、各地で水害が起きてた。食糧危機も騒がれていたが、ネットでは「これは現代のノアの洪水では?」と噂もされていたが、私はよくわからなかった。  子供の頃に小児性愛者に被害を受け、ときどき記憶力や思考力を奪われていた。フラッシュバックもあり、生活も苦労している状況だった。裁判でも犯人は、多様性の一つとして刑が軽くなっていた。今は心は女性と言い張り、女子刑務所にいるらしい。今年、二十歳になるが絶望感でいっぱいだ。子供も望めない身体になり、恋愛をする気はない。あの犯人と同じぐらいの五十歳ぐらいの男を見ると、身体が強張り、動かなかった。  そんなある日、雨の中、近所のスーパーに行った帰り、海辺に何かやっているのを見た。私の住む町には、海があった。この雨で海の水の量も増えているように見え、あまり近付かなかったが。  男が一人、海辺で木造の小さな舟のようなものを作っていた。意味がわからない。近所のヤンキー達が「バカじゃね?」「陰謀論者!」とバカにしていたが。 「ねえ、あんた、何やってるの?」  雨は少し弱まっていた事もあり、私は男に声をかけた。 「方舟を作ってるんだよ?」 「方舟?」 「たぶん、世界はこのまま洪水で滅ぼされる気がする」  男はレインコートを着込み、フードもかぶっていたので、顔はよく見えなかった。自分と同じぐらいの歳の男だが、どことなく不思議な雰囲気はある。体格は良いので、大工仕事は得意そうだったが。 「どういう事?」  私はおそるおそる男に近づき、聞いてみた。遠い昔に「ノアの方舟」という物語があったららしい。堕落した世界で、大洪水が起き、全てを洗い流されてしまった。ただノアという男と家族、動物だけは方舟に乗り助かったとい物語だった。まるで御伽話だが、堕落した世界は今と共通点がある。それに毎日雨が止まない状況は、大洪水の前兆だったりする? 「だから俺は方舟を作ってるのさ。いくらバカにされても構わない」  男はドヤ顔をしながら作業を進めていた。  今は、多様性という言葉のもと、自分のような泣き寝入りする被害者がいっぱいいた。声を上げる事も出来なかった。差別主義者というレッテルをつけられる。  でも、もしこの汚い世界を綺麗に洗い流してくれる存在がいたら……。  そんな希望も持ってしまった。 「ねー、私も方舟作るの手伝っていい?」  男はびっくりして目を丸くしていたが、私の言葉に頷く。 「ああ。やってみるがいい」  雨は相変わらず降り注いでいた。もう二度と止まなくていい。  永遠に降り注いで、この世を滅ぼしてくれたって構わない。  この雨は、私にとって恵みの雨かもしれない。
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