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「霊感無くても見えるらしいし、触れることができるんだって! 是非私も心霊体験してみたいじゃない」
「そういうものなの? 私は帰って寝たいよ……」
カレンは太陽のように快活で、サッパリした性格。霊感もゼロ。そんな生命力にあふれた陽の気たっぷりの人に寄ってくる物好きな幽霊はいない。
この有象無象の幽霊渦巻く王都随一の心霊スポットで、自分が幽霊にまとわりつかれているだけで済んでいるのは、彼女のおかげでもあった。
ステラは、胸まであるマロンブラウンのストレートの髪を、特別な魔法陣が縫い込まれているリボンでぎゅっと結びなおす。
このリボンがあれば低俗霊に憑依されることはないと思う。でもこんなに幽霊が集まっているなんて魔塔の管理はどうなっているのかしら。
坑道のねっとりとした漆黒の闇に対して圧倒的に力が及ばない魔石灯の朧げな光は、せいぜい一メートル先へしか届かない。
その暗闇を少しずつ地下へ下っていくのは、幽霊が見える見えない以前に恐怖でしかない。人として持つ根源的な闇への恐怖。
心霊スポットでなくても、下へと続く終わりが分からない道を進むのは普通の人ならば怖いはずだ。
それなのに恐怖パラメータが壊れてしまっているカレンは、まるでウィンドウショッピングをしているみたいに楽しげにあちこちを見ながら歩いている。
そして動画を撮るための魔道具を手に持ち、時折場所の説明や感想を語っている。
どのくらい進んだのか、眼前には更に下へ向かう階段が現れる。
急に空気がヒヤリとした緊張感のあるものに変わる。今までまとわりついていた幽霊たちが、一斉にいなくなった。
「……これは、すごいね。私もついに見えちゃうかも⁉︎」
いや……ここには何もいないんだって。心の中でカレンに突っ込みを入れる。
「もう帰ろうよ。充分でしょ? ここ私有地だし、不法侵入だよ」
下っ端の幽霊たちがいなくなったと言うことは、もっと力の強い幽霊がいるはずだ。この奥に潜んでいるものは、一体何かと想像するだけでも恐ろしい。
手のひらに汗がじわりと滲む。
カレンはすぅっと深呼吸すると、気合いを入れ直すように頬をパンパンと叩く。
「よし、気合いだ! 行くよ! ついに私のチャンネルにも心霊が映るかもしれない!」
「やだぁー」
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