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ざりっと砂礫を踏みしめながら、誰かが、こちらへ向かって歩いてくる。こんな暗闇で灯りもつけずにこちらへ向かってくるようなもの。……それは良くないものに決まってる!
「カレン、逃げようよ!」
ステラはカレンのワンピースの袖を強く引く。振り向いたカレンは瞳をキラキラと輝かせ、頬を薔薇色に染めている。
え、何その表情……。ステラはカレンの狂喜乱舞の表情に驚きを隠せない。
「ステラ、私、幽霊の声を聞いたわ。ついに念願の幽霊を見ちゃうかも?」
「そんな場合じゃないよ! 逃げよう!」
「絶対にダメ! 私、幽霊が見たい!」
「見たっていいことないよ。怖いし、理不尽だし、気持ちだけが残って純粋な悪意を持っている不憫な存在でもあるんだよ?」
「そんなの知らない。私には関係ない。見てみたいだけ。幽霊が本当に存在しているなら、確かめたい」
押し問答をしているうちに足音は少しずつ近づいてくる。
一メートル先に、青白い足の甲が見える。素足だ。
「ひいっ」
やばいやばい、廃鉱の主とか祟り神とかが出てくるんじゃないの! 裸足だし、怨念を持って自殺した霊かもしれない。
今までの経験から、唸ったり、恨み言を言ってくるタイプのやつは、まだわかりやすいからいい。しかし親し気に話しかけてくる、一見理性を持っているようなやつは、霊の中でもダントツに危ないやつだ。
恐怖に歯がうまくかみ合わず、カチカチと音を立てる。
ステラは逃げようと後退するが、落ちていた小石に躓き、尻餅をつく。
カレンは、その場で動かず、固唾を飲んで正面を凝視している。魔道具をしっかりと前方へと向け、動画を撮り続けている。
更にその正体不明なものが近づいてくる。
(やだやだやだ。怖い、怖い!)
それが、顔が分かる位置まで近づいてきた時、全貌が明らかになる。
そこには、白のマントをまとい、股間を怒張させた全裸の男が立っていた。
……あれ、幽霊じゃ……ない?
「きゃああああー! へ、変態露出狂ー!」
「ちょ、待ってよ、カレン、大丈夫だよ。人間だよ。幽霊じゃな……」
パリンと何かが割れた音がした。
「幽霊より人間の方が怖いわっ! こんな夜中の心霊スポットに全裸男なんて、異常よ! 怖すぎるー!」
カレンの「きゃああああ」と言う本気の悲鳴が坑道の壁に反響する。
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