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カレンは階段をあっという間に駆け上っていってしまった。取り残されたステラは、腰が抜けて、立ち上がれない。
……信じられない。こんな場所に置き去りなんて。ひどすぎる。
「やぁ」
「ひぃっ」
突然、前方の破廉恥な男が話しかけてきたので、思わず変な声が出る。
フレンドリーで理性的な幽霊も危険で怖いが、こんな場所、こんな時間に全裸で大興奮している変態もある意味怖い。
ステラは、話しかけられてしまったので仕方ないと律儀に声の主を見上げる。
長身、プラチナブロンドの腰までの長髪、モルガナイトのようなピンクに近い薄い紫色瞳、アンニュイな天使のような神秘的な容姿、目元のほくろが何とも色っぽい美青年。
怒張した股間と全裸にまとった白マントという変態さに目をつぶれば、誰もが街で振り返るイケメンがそこに勃って、いや立っている。
(あれ? 私、この人を知ってる)
ステラは、元気に存在を主張する彼の股間を脳内補正でモザイクをかけ、認識しないようする。ごくりと唾を飲み込み、意を決して話しかける。
「あ、あの、ラジエル・クルス様ですよね? 祓い師の」
「君、よく知っているね。そう私は、祓い師のラジエル・クルスだ」
ラジエル・クルスは、史上最強の祓い師と言われている。彼にかかればどんな悪霊でも、あっという間に祓われてしまう。
何よりも特筆すべきなのは、彼は祓い師なのに霊が見えないということだ。
そもそも霊が見えなければ祓うことはできない。
しかし彼は、その常識を覆した。彼は祓う対象の霊を調査、分析する。そしてその結果から導き出された除霊方法により、数々の厄介な霊たちを祓っていると言われていた。
祓い師の家系として名高いクルス家の恥だと、霊が見えない彼を嘲笑していた他の祓い師たちは、彼が最年少で魔塔に所属することになった時、沈黙した。
そんなラジエルに憧れと尊敬を持っていたステラは、彼のコラムや論文を追っており、ちょっとしたファンでもあった。
実際に話しをしたのは初めてのことだったが。
「そ、それで、クルス卿は、ここで何をされているのですか?」
そんな格好で、と言うのはかろうじて堪えた。
「ラジエルでいい。ここは私の家の敷地の一部で、各地で祓った悪霊のうち特に怨念が深い霊たちを鎮める場所なんだ」
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