口付け

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入院が長期になると、主人が来られない日が多くなってきていた。 その頃からだろうか。 主人から少しの違和感を感じてきていた。 優しい口付けは次第になくなっていき、私がお願いをすると困ったような様子で 「しょうがないなぁ。特別だぞ。」 少し前までは言わなくても必ず口付けをしてくれたのに、仕方なくする口付けは少し虚しさを覚えた。 ワイシャツも入院した当初は、アイロンもかけずに洗濯機からそのまま出して着ているような感じだった。 それが、今は折目正しくアイロンをかけられている。 ネクタイも今までとは、趣味と違う物へと変わった。 髪も私が言わないと美容室にすら行かない人だったのに、短く切り揃えられさっぱりとした様子になり、爽やかな香水の匂いさえ漂わせていた。 そして、医者から余命宣告をされたと同時に私は理解をした。 主人はもう違う未来を見始めたのだと。
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