口付け

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そこから毎日、両親が来るようになった。 両親は何かを察知しているのか、見舞いに来ない主人の事を聞かなかった。 いや、聞けなかったのだろう。 死亡保険の受取人を父へと変えたと言った時から、何かに気付いて聞けずにいる。 私の体調も日毎に悪化していき、起きられる日が少なくなっていった。 だからこそ、聞けないのだろう。 私は母に頼んで大学ノートを買ってきてもらった。 エンディングノートにすればいいのかもしれないけれど、両親には頼めなかった。 だから、私は大学ノートに書く事にした。 力の入らなくなった利き手で、書いていると担当の医師がノックをして病室へ入ってきた。 「失礼します。どうですか?眠れている?」 「思ったより眠れていると思います。」 「そう。」 医師はそう言うと電子カルテを見ていた。 医師は青黒い髪に長い睫毛、白い肌に長く綺麗な指先。 本当に綺麗な顔をした医師で、最初見た時は病院でドラマの撮影でもしているのかと勘違いするほどだった。
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