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その日から先生は病室に来る度に、優しい口付けをしてくれるようになった。
ただ、私の容体は日に日に悪化していった。
「僕が居るから…」
「あり…がとう」
私達は毎日、この言葉を繰り返した。
私の世界はこの病室だけで、先生が世界の全てになっていった。
両親が来るより、先生が来る事を願った。
早く来てほしい…。
1分1秒でも長くあなたの側に居られたなら、それだけでいい。
力の入らなくなった身体を起こして髪を整える。
お化粧は出来なくても、少しでも綺麗な自分でいたい。
初恋の相手に会うような気分で、髪を梳かした。
先生の来ない時間は、エンディングノートに向き合った。
だんだんと迫り来る生命の期限を感じエンディングノートにとしていた大学ノートには、預貯金等の事や葬儀の事。
お墓は実家に入りたい事など遺書を書いて、葬儀は両親の手でお願いしたい事。
最後には両親に感謝の気持ちを綴った。
私の少ない財産なんかあてにしてないだろうけれど、主人の事は1行も書かなかった。
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