炎火

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炎火

草木と、獣や生き物が焼ける匂いに琥珀は顔を歪め、本人すら気付かない内に噛み締めた歯が音を立てた。 人間が火矢(ひや)をわざわざ獣目掛けて射っている。 火矢が命中した獣は熱さと痛みで暴れ回り、身体に付いた火を消そうと地面や木に擦り付け、それが枯れた葉や草に燃え移る。 その火が風に乗り瞬く間に広がっていく。 琥珀は獣の悲鳴や断末魔に煽られる様に、その場にいる人間を全て手に掛け、目に映る火を鎮めた。 しかし離れた所に幾つもの火が上がり、そして次々に放たれる火矢が、また新たな火種を産み続ける。 いくら琥珀と言えども、これ程の炎を一度に操ったことは無い。 それに加えて殺した人間の数だけ身体が傷を負っていく。 ほんの僅かづつだが、自分の動きが遅く感覚がにぶくなっていくのが分かった。 そして幸成に刺された傷が、塞がることなくじわりと血を溢れさせた。 いくら他を癒す力が無いとはいえど、自分の身体の傷を治す霊力くらいは持ち合わせている。しかしそれが上手くいっていないのだ。 それが、力を多方向に向けている為なのか はたまた幸成の短刀の切っ先が心臓に届いていたせいなのか分からない。 しかし今はそんな事すら、考えていられなかった。 僅かに鼻に届く“あの男”の匂いを、その全てを続けながら一刻も早く見つけださねばならない。 琥珀は口の中に広がる血を吐き捨てると、次の戦いへとその姿を消した。 琥珀がいなくなった部屋で、鞘に収められた短刀を前に幸成は唇を噛んだ。 父と兄が仕掛けてきたこの時に、自分は共に戦うことも出来ない。 置いていくと判断したのは琥珀だ。 しかしそれが当然だと解る。 いつ自分に刃を向けるか分からない者を戦いの場に連れて行ける訳が無い。 膝に置かれた幸成の手が着物を掴み強く握られた。 まさか本当にこの刀で琥珀を傷付けてしまうなんて、思いもしていなかった。 この手で、愛する者を傷付けるなどと……。 琥珀は考えるなと…… 心配いらないと言ってくれた…… しかし、琥珀の胸に刀が沈んでいく感触が残っている。 ───この手に今も………… 「──なんだ!?お前───!!」 すると突然奥から翡翠の声が幸成の耳に届いたた。 ───翡翠ッ!? 幸成は短刀を握りしめると声のする方へ駆け出した。
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