永遠に

3/20
前へ
/174ページ
次へ
緑が戻りつつある焼けた山肌を見下ろす背中に、近付いてくる微かな足音がすぐ側まで来ると、横に並ぶ様にその音が止まった。 「…………もう満足したろ……」 怒りとも哀れみともつかない声が、所々に見える新しい命を見つめる白姫の耳に届いた。 「あいつの……苦しむ姿が見たかったんだろ?」 「…………そうだよ……」 ぽつりと呟き、紫黒を振り向いた顔が満足気に微笑んだ。 「当然でしょ?……僕から大事な者を奪っておいて……あいつはのうのうと“雪乃”と笑ってたんだから……。許せる訳ないじゃん……あの子は……僕が初めて見つけた生き甲斐だったのに、主様から当てがわれたわけでもない……僕が……初めて自分で決めて……眷属にした…………僕を……少しづつ知って……眷属になりたいって…………言ってくれた……」 いつの間にか無理に作られていたような満足そうな表情が消え、白姫の顔が辛そうに歪んでいる。 「──それなのにッ!あいつは……何もなかったみたいな顔して……人間の女なんか見つけてさッ!」 少しづつ大きくなる声が、感情が溢れ出したと言うよりは、自分への言い訳をしているように聞こえ、紫黒は何も言わず白姫の言いたいままに任せていた。 「あいつは僕から全てを奪ったのにッ!雪乃と笑ってたんだよ!!」 あの戦いの後暫くして初めて琥珀の姿を見に来た。 あんな事までして…… 琥珀がどう生きているのか……どうしても見たくなった。 それを禁じていた主の目を盗み此処に来た時、目の前で愛しい者を奪われた時以上の憎しみを抱いた。 人間の女と笑う姿に…… 愛おしそうに見つめる瞳に…… いつか同じ苦しみを、それ以上の苦しみを琥珀に与えてやると、心に誓った。 「…………確かにあいつは雪乃と共に過ごすようになって……笑うようになった」 会いに来る毎に、穏やかな……優しい表情になっていった。 きっとそれが、元々の琥珀なのだと思えた。 「そりゃそうだ……。全て…………大御神達の加護なんだからよ……」 「────は…………?」 「雪乃は琥珀の傷を癒すように作られてた。あいつが……二度と馬鹿な真似をしないように……」 紫黒の顔が辛そうに歪んだ。 「あいつが望んだ言葉を与え、望んだ愛情を注ぐ……」 「…………なんだよ……それ……」 「雪乃は神々が琥珀の為に作り出した人間だ」 そしてやがて迎える“死”すら決められていた。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

329人が本棚に入れています
本棚に追加