永遠に

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当時は紫黒すら知らなかった。 猟師の銃によって“誤って撃たれる”──それが雪乃の決められていた“死”だった。 身を堕とした時と似たような状況を作り、それでもし……琥珀がまた同じ事を繰り返す様なら、今度こそその存在自体を消される手筈になっていた。 雪乃が端から決められた“死”を迎えた時、神々が琥珀の全てに気を向けていた。 見張っていたという方が正しいかもしれない。 その異様さに気付いた紫黒が、罰を受けるのを覚悟で主を問い詰めたのだ。 そこでその全てを知った。 「まぁ…………幸成を狙ったお前の判断は正しかったてことだ……奴が“初めて見つけた何より大切な者”だったんだからよぉ……」 自分から目を逸らし俯いた白姫を責めたい訳では無かった。 二人より長く生きてる者の務めと思った訳でも、まして憎しみは云々と……説教をするつもりも無い。 ただ…………神であろうが、眷属であろうが、それが例え人間であろうが…… 「結局……誰でも蓋を開けてみりゃ…………手放しで幸せなんて奴ぁそうそういねぇもんさ……。まぁ、だから……必死て足掻くんだろうけどよ……」 「…………何が言いたいんだよ……」 白姫の不貞腐れた様な声に、暫く黙っていた紫黒は首を傾げ少し困ったように笑った。 「別に……?俺は琥珀が好きだし……お前も嫌いじゃねぇよって話」 「…………嘘つけ……紫黒に好かれたって…………嬉しくないし……」 「好きだなんて言ってねぇよ。嫌いじゃねぇって言っただけだ」 そう笑って「またな」と去っていく背中を見送るでも無く、白姫は“神殺し”の後、人間が一番に建て直した大口真神の社へ視線を向けた。 「………自分たちのした事で……自分たちが怯えてやんの……」 口の中で呟くと、さっきとはまた違う足音がすぐ後ろで聞こえた。 「白姫様」 聞き慣れた耳触りの良い声に白姫は振り返った。 「空が崩れてきそうですよ。そろそろ帰りましょう……?」 厚く、色の濃い雲を心配そうに見上げていた瞳が、白姫の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。 「…………何…笑ってんのさ」 「白姫様が私の言葉に顔を向けて下さっていたので……」 「………何それ……。僕だって呼ばれれば顔くらい向けるよ」 「そうですか?」 唇を尖らせ不貞腐れた様に言った白姫に、青鱗はクスッと笑った。 「そうだとしても……やはり白姫様が私を見てくれるのは……嬉しいですから」 「………………変な奴……」 「そうですか?」 それでも嬉しそうに笑っている青鱗の腕に自分の腕を絡めると 「帰るよッ!」 青鱗の身体を引っ張るように歩き出した。 「──あ…………はいッ」 腕を引かれ慌てて歩き出した顔が、驚いたように目を見開いた。 こんな風に白姫から触れられることは初めてだ。 「……お前は…………何があっても、僕の傍にいてよね」 振り向きもせず、ぶっきら棒に言った白姫の耳が僅かに赤くなっている。 「───はい」 それが分かってなのか、もう一度目を見開くと、青鱗はさっきよりまだ嬉しそうに笑った。
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