永遠に

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自嘲めいた琥珀の言葉に、幸成は困惑するように眉を顰めた。 「……お前が死ぬかもしれねぇと思った時……腹の底から怖ぇと思った………」 僅かに伏せられた眼差しが、その時の事を思い出しているのか、憂いを帯びて見える。 「ただ手放したくなくて…………傍にいて欲しくて…………お前にオレの血を飲ませた……」 虫の声ひとつしない静かな空気を震わせるその声が、穏やかで、それでいて胸を締め付ける。 並々と注がれたままの酒がぼんやりと月を映し、それを見つめる同じ色の瞳が、ひどく愛おしい。 「後悔してる訳じゃねぇ…………あの時オレは…お前に憎まれても、恨まれても構わねぇと思ってた…………それなのに…………今は、お前が怖くて仕方ねぇ……」 手元の酒を見つめていた瞳が、何も言えずにいる幸成に真直ぐに向けられた。 淡い月明かりを写しているからか…… 切なくなる程真直ぐな瞳が、微かに濡れて見える。 「──俺が…………?」 「可笑しいか?……オレは、何よりお前が怖ぇよ…………。こんな………クソみてぇに長ぇ時間の中に引きずりこんで…………無理矢理オレに縛り付けた……お前の気持ちなど考えもせずにだ…………」 まるで怯えているようにすら見える琥珀の表情が辛そうに歪んだ。 「無理矢理ここへ来させられたお前が、ここに来て何を思っていたのか……ここに来る前に…………未来(さき)を……約束し合う者はいなかったのか…………」 不器用に……けれども必死に自分の胸の内を伝えようとしてくれているのだと、幸成には解った。 幸成の記憶を奪ってしまったことに、この先の長い時間を奪ってしまったことに怯えているのだ。 もう決して聞くことの出来ない想いと、この先の未来(じかん)を選ぶことすら出来なくさせた贖罪と……。 それが幸成を遠ざけていた。 触れる事すら出来なくさせた。 ───こんなに……想っていてくれたのに…… 「そんなことばっか考えて…………手前ぇのした覚悟すら忘れてた……」 ───ああ…………この人は………… 「お前を離したくねぇと……何があっても離さねぇと決めたのに…………」 ───こんなにも…………優しくて………… 「俺は…………」 柔らかい沈黙を破るように、幸成は口を開いた。
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