永遠に

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「…………本当…………オレは阿呆だな……」 「…え……?」 口の中でぽつりと言った声が聞き取れず、幸成は眉をひそめ琥珀の顔を覗き込んだ。 すると泣きそうにも見える笑顔が不意に唇を塞いだ。 「────ッ…………」 昨夜よりも熱く感じる唇が、激しく自分を求めているのが分かる。 唇を舐める舌を受け入れると、それよりまだ熱い熱が全てを舐め尽くそうとするように這わされ、幸成の身体がピクリと震えた。 「…………ンッ…………」 絡む舌が、熱を増す抱きしめる腕が、身体の奥を熱く火照らせる。 「…………幸成…」 耳のすぐ近くで余裕の無い声が名前を呼び、そんなことすら頭の中まで熱くなり 「───琥珀ッ」 耳を舐める舌が、首元を伝う唇が、全てを疼かせる。 苦しくも聞こえる琥珀の荒い息遣いにも、手繰り上げられた着物の裾から肌に触れる手にすら感じる。 「────あッ…………」 優しく開かれた柔い肌を伝った指が、閉ざされたままの秘部に当てられると、子を孕む為に整い始めた身体が、女のそれの様に指にじんわりと蜜を溢れさせた。 「───ぁ……………」 それが自分でも分かり、初めての感覚に身体が震える。 触れる肌が、身体中にされる口付けが、幸成の身体を徐々に敏感にしていき、琥珀の指がなぞるだけで自分の身体が微かに立てた艶かしい音が聞こえる。 「───あッ………………ン……」 無意識に口から溢れた声に、幸成は顔を真赤にして腕で口を押さえた。 自分の声とは思えないような淫らで、いやらしい声が堪らなく恥ずかしく感じたのだ。 それなのに身体は菊座を撫でる琥珀の指が挿れられるのを待ち望んでいる。そして指だけでは無く、琥珀の昂りが挿入られることも……。 固く目を閉じ、声を殺すように口に腕を当てた幸成に気付くと、琥珀はその腕を優しく奪い唇を合わせた。 「怖いか……?」 離れた唇が耳元で囁く声に、幸成は必死で首を横に振った。 怖くないと言えば嘘になる。けれど記憶を無くす前は、きっとこうして愛されていたと解る。 ───琥珀となら………怖くない…………。 「……余裕無くてすまねぇ…………」 それにもただ首を振る幸成の身体を、琥珀は思い切り抱きしめた。 こんなにも愛おしいと思ったのは、幸成が初めてだった。 自分の全てを差し出したとしても惜しくない。 「もし…………イヤだと思ったらすぐに言ってくれ…………どうにか止める」 そう言って無理に笑った唇に、幸成は初めて自分から口付けた。 「……止めなくて大丈夫です………全部…………俺の中に……」 言葉が終わらないうちに、琥珀の唇が声を遮った。 「煽りすぎだ……」 そして再び唇が重なるのと同時に、長くしなやかな指がゆっくりと菊座を広げ充分過ぎる程濡れた奥に挿れられた。 「─────ンんッ…………」 塞がれてもなお、艶かしい声が漏れる。 離れた唇が首を吸い、僅かな痛みが快感に変わっていく。 「……ぁ…………ん……」 二つの激しく変わった息遣いに周りの空気が揺れ、明るくなりつつある早天の光がそれを余計妖艶にする。 「琥珀ーッッ!!」 しかしその時、翡翠達が寝ている部屋の方から全てを壊すような呼ぶ声が聞こえ、ドタドタと走る足音がこちらに向かっているのが聞こえた。 「琥珀ッッ!幸成がッ!──幸成がいないッ!」 思い切り開け放たれた襖から、今にも泣きそうな翡翠が姿を現せた。 そのすぐ後ろには情けない顔をした蒼玉もいる。 「…………幸成…………」 そして布団の上で向き合って座る二人を目にすると、翡翠より後ろにいた筈の蒼玉が幸成に抱きついた。 勿論それを追うように翡翠も幸成に抱きつく。 「なんだよッ!ここにいたのかよッ!またいなくなっちゃったかと思って心配したじゃんッ!!」 笑っているとも怒っているともとれる翡翠の顔が、ホッとしたのか瞳に涙を溜めている。 「ごめんね……琥珀と……その………は…話をしていて……」 いつもは正座をしている幸成が、膝を立て不自然に座る姿を不意義そうに見ながら 「………ふーん……ま、いいや。それより早く飯作ろう!おれ、腹減っちゃった」 腕を引く翡翠に抗うように思わず力が入る。 「ちょっと…………待って……」 今立つ訳にはいかない……。 「…………じゃあ……琥珀行こう……」 いつもとは違う幸成の態度に、何かを疑うような眼差しが琥珀に向けられる。 「――すぐ行くからッ…………先行ってろ……」 いつも胡座をかいて座るのに、こちらは正座をしているものの、身体を前に倒し布団に手をついている。 その姿は……まるで…………。 「…………解った!来い、蒼玉!先に行くぞ!」 翡翠は何かを察知したように幸成の身体から蒼玉を引き離した。 「う〜!」 いやいやと首を振り、すぐにまた幸成にしがみつく蒼玉に顔を顰めると、溜め息混じりに耳に口を近付けた。 「琥珀……きっとこれから幸成に“土下座”するんだよ……おれたちがいたら……可哀想だろ?」 小声で言った顔が、どこか哀れんだ瞳を琥珀に向けた。 「……どげざ……?」 首を傾げる蒼玉に「しッ!」と口に指を当てた。 「いいからッ!行くぞ!」 まだ納得しきれない蒼玉を連れ 「しっかりやれよ!」 翡翠はそう言って開け放たれていた襖を閉めた。 「…………か……勘違い…してましたね……」 「あながち勘違いでもねぇけどな……」 もちろん翡翠の“耳打ち”が聞こえていた二人は、ホッと息を吐いた。本当は何をしようとしていたのかを知られるよりずっと良い。 「───ったく……いつもいい時に来やがる……」 苦笑いした琥珀に幸成も笑った。
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