永遠に

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「体調はどうだ?」 すぐ隣を並ぶように歩く幸成へ声をかけると、台所に既にしてある昼支度に小さな溜息を吐いた。 「昼は帰ってからオレがやるって言っただろ……?今は体調を直すことだけ考えろ」 そう言ってもう一度頭を撫で琥珀は困ったように笑った。 しかし幸成もそれに微笑い返すと 「これくらい大丈夫です。何もしない方が気が滅入ってしまいます」 幾つも握り飯が乗った皿と人数分の汁椀を大きな盆に乗せるとさっさと運び始めた。 「お、おいっ!オレがやるから……」 慌てて盆を取り上げた琥珀の顔が情けなくまた溜息を吐いた。 「……そうは言ってもさ……今朝だって飯食えなかったろ……頼むから少しはオレの言うことも聞いてくれよ……」 陽気のせいか、ここ最近体調を崩している自分を心配してくれているのは解る。しかしそう大層な病気という訳でもないのに、ただ寝ているだけ…と言うのは性にあわない。 今日紫黒が来るのも恐らく琥珀が瑠璃を呼んだのだ。 「琥珀…………」 幸成は心配そうにしている顔を覗き込むと 「俺なら大丈夫です」 こちらも困ったように笑った。 「きっとただの風邪です。それに……動いている方が気が紛れて楽なんですよ?べつに無理に動いてるわけじゃない」 「……そうかもしれねぇ。けど───」 ───また“けど”だ………… 「風邪は万病の元って言うんだろ?お前はオレと違って死なねぇ訳じゃねぇ……それに──」 ここ数日何度となく繰り返されている会話に幸成は小さく溜息を吐いて、唯一自分が作った胡麻和えの小鉢を乗せた盆を手に取ると歩き出した。 どうも琥珀は心配性でいけない。 確かに、ここ数日食事がとれなかったり熱感を感じる事もある。 だからと言って……眷属の為に飯を作り、洗濯に(いそ)しむ『神』がいるだろうか……。 翡翠たちはキジに夢中のようで、誰も来ていない居間の畳の上に盆を置くと、後ろからまだ何か言っている琥珀にまた思わず溜息を吐きそうになった。気持ちは嬉しいが……少ししつこい。 すると突然幸成の身体を琥珀の手が抱き寄せた。 「──わぁッッ」 均衡を崩し倒れそうになった身体を、逞しく温かい腕が支えた。 「お前…………オレの話聞いてないだろ……」 すぐ後ろから少し不貞腐れたような声が聞こえる。 「き…聞いてますよ」 きまりが悪そうに起き上がろうとする幸成を、しかし離すどころか琥珀の腕がキツく抱きしめ 「頼む……心配くらいさせてくれよ。それに──」 耳元に近付いた口が今度は甘い声に変わった。 「オレにだって我慢の限界がある……」 「…………我慢……?」 首を傾げる幸成の耳に、柔らかい唇が触れた。 「……もうどれ程お前に触れてない……?」 ───あ……………… 幸成の頬が瞬く間に紅く染まった。 ここ十日ばかり風邪がうつると困るから……と、口付けさえ拒んでいた。 すぐ胸に抱いて寝ようとする琥珀に、ここ二、三日布団も別にしている。 「───それはッ──俺だって我慢して……」 本当なら琥珀の腕に抱かれて眠りたい。 触れられない肌がひどく愛おしくて、何度も触れようとして我慢した。 触れた唇が熱くて、顎を優しく上げる指に幸成はゆっくりと瞼を閉じた。 ───ちょっとだけ……口付け…だけなら……
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