罪と罰

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過去に犯した大罪。 それは、どんな罰を受けても、例えそれを知る者がいなくなったとしても、決して消えることは無い。 「……それに……今回お前はどうやってやり合うつもりだ?」 苦虫を噛み潰した様に顔を顰めると、紫黒も杯に酒を注いだ。 「お前の力がありゃ、あんな虫共……どうってこたぁ無ぇだろうよ……。けど、お前が戦えば戦っただけ……全て跳ね返ってくる」 「死にゃしねぇよ……なんつっても……オレは「神」だからな」 「茶化すなよ」 「茶化してねぇさ……。それが事実だ。痛みを伴わなきゃ……罰になんねぇ」 それでもまだ笑っている琥珀に 「もう充分、苦しんだだろ」 そう言いかけて紫黒は言葉を飲み込んだ。 自分のことを『悪神』と言ったこの男と知り合ったのは、琥珀が大罪を犯し、紫黒の主の耳にもそれが届いた時だった。 数人の神が重い腰を上げ「真神」を捕らえ、そして二度と同じ罪を起こさぬ様に『罰』を与えた。 捕らえられ動けなくなってからも琥珀は、大神相手に牙を向いた。 人間の血で深紅に染まった、狂気に満ちた瞳を、紫黒は今でも覚えている。 美しくさえ見えたあの「狂気」を。 一瞬……この男に先に会っていたら……そう胸に掠めた記憶も。 静かな寝息が耳を掠め、瑠璃はその寝顔を見ながら、起こしてしまわない様に幸成の胸の上にそっと手を当てた。 確かに……思っていたより怪我が少ない。 ───殺そうとしていた割に……傷は付けなかったんだな……。 手足に切り傷やかすり傷と、転んだ時に付けたのか足にやや大きな裂傷があるくらいだ。 このくらいなら、すぐに治せる。 胸に当てた手がぼんやりと光り始め、その光が流れ込む様に幸成の身体も薄く光り出した。 ───きっと……琥珀様を怒らせた妖狐の方が酷い有様だろうな……。 瑠璃は紫黒の眷属になることで、生き物の中の気を読み、怪我や病を治癒する力を手にした。 勿論、本来は主の“紫黒”の為に使う力だ。 身体が小さく細い瑠璃にとって、主と共に戦う力よりは理に適っていると言える。 瑠璃は幸成の寝顔を見ながら、初めてここで会った時のことを思い出していた。 あの頃より幾分か、気の流れも良くなっているし、生命力も強くなっている。 ───琥珀様からの……寵愛のおかげかな…… あの時は、正直幸成から“生”をあまり感じられなかった。 体内の気も澱んでいて、生きるのが辛そうにも見えた。 「……良かったですね……幸成殿……」 そう呟く様に口にすると、瑠璃は幸成にそっと布団を掛けた。 穏やかに眠るその体には、傷ひとつとして残されてはいなかった。
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