【カゲフミ】

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「すまない高橋さん。天上明里(テンジョウアカリ)の友人である君に()()()()事があるんだ」  時刻は午前7時15分。  春は過ぎ去り、梅雨に入ろうという5月末端の時節。  迫るような蒸し暑さは鳴りを潜め、やや肌寒さを感じさせる時間帯だ。  今日はどのクラスも部活の朝練が無いのか、普段なら一人二人はいる筈の校内も、静謐さに満ちていた。  教師すら学校に来ていないんじゃないかと錯覚すら引き起こさせる程に、静寂に満ちた教室で、僕──暗井景文(クライカゲフミ)彼女(高橋さん)は向き合って話していた。  僕は彼女の()()()()()()()、 マネキンのように硬直する高橋さんにとある()()を下した。 「明里ちゃんについて? 命じる?」 「そうだ。と言っても難しい事を要求する訳じゃない。君はただ、この教室に彼女を連れてくるだけでいい。()()()()()」  踏みつけた影から足を離さずに、彼女の瞳の底にある自我を睨みつける。  じわじわと黒い染みが、彼女の眼球に膜を貼るよう広がってゆく。  確認のため再び覗き込むと、彼女の眼球は真っ黒に染め上げられていた。……うん、やはり慣れないな、この光景は。  能力が的確に作用し、対象者を掌握下に置かれた事を確認した僕は、若干の罪悪感を引き摺りながら彼女の影から足を離した。  すると彼女はマネキン状態から、少し可動域の上がったフィギュアのような動きで、高橋さんを模倣しながら機械的に微笑む。 「わかったよ暗井くん。すぐに呼んでくるね」 「ああ、頼む」     そう言って頭を下げると、高橋さんは笑顔のまま教室を出る。命令通り、天上明里(テンジョウアカリ)を呼びに行ったのだろう。  僕はふぅ、とため息をつき、自分の席へと戻る。  能力を悪用した。その事実が胸を締め付ける。けど僕には、罪を被ってでも確認したい事があった。
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