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ガラリと音をたて、扉が開かれる。
最初に教室へと足を踏み込んできたのは高橋さんだった。
高橋さんは扉の死角に立つ僕の存在に気付かず、そのまま自席へ戻ってゆく。
それを黙って見送り、声を殺して次に入室してくるであろう生徒を、今か今かと待ち侘びる。
大丈夫。絶対に上手くいく。
自分にそう言い聞かせながら、はやる気持ちを落ち着かせるように繰り返す。そして……
高橋さんに続き、二人目の生徒──僕の目的の相手である、天上明里が教室に入って、
──来なかった。
「……えっ?」
呆気に取られた僕は、思わず上擦った声を挙げてしまう。
そんな僕の声に反応したのは、つい先ほどまで僕の掌握下に置かれていた高橋さんだった。
振り向き様に「そんな所で何してるの?」と尋ねてくる彼女に、僕は目を逸らした。
……何してるの? じゃないだろ。僕は君に命令したんだぞ? なのに何故、能力が解除されている?
その疑問に答えてくれる人は、当然いない。返答に窮する僕を訝しげに見つめた後、高橋さんは自分の席についた。
そんな彼女を呼び止める事も出来ず、その場に立ち尽くしていると、天上明里の代わりに入室してきた担任の佐藤先生に声をかけられ、またしても上擦った声を挙げる。
「ちょっと暗井くん、なんでそんなところに立っているの?」
「あっ、いや、これは……」
佐藤先生の質問に狼狽える僕は、何と言い繕えばいいのかを考える。
──とある女子生徒の影を踏もうとしていました、なんて言えば、僕は今日から「女子生徒の影を踏みたがる変態」の烙印を押されてしまう。
流石にそれは避けたかった為、隠キャらしいキョドり方をしながら「何でもないです」と笑って誤魔化した。
恐らく誤魔化せていない。むしろ不審感が増しただけだ、これは。
狙いは外れた上に、高橋さんからも佐藤先生からも変な目で見られるという結果に終わった僕は、恥ずかしさのあまり顔面が沸騰する勢いで熱くなる。
クソ、こうなったのは何もかも、あの女が僕の狙い通りに来なかったのが悪いんだ。
八つ当たりをするように脳内で愚痴る僕は、いたたまれなくなって足早で席に戻る。
──そうして。僕が教室の扉から離れてからすぐに、目当てだった天上明里が教室へと入って来た。
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