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僕には影を踏む事で、相手を掌握下に置く事ができる能力がある。
それを悪用して彼女に……という邪な考えを持って接しようという訳では無く、ただ純粋に彼女へ僕の想いを伝えたい。それだけだった。
ただそれを実行しようと試みるも、今日みたく何故か邪魔が入るのだ。それも一度だけではなく二度、三度……。
数え出したらキリが無い程に、僕の作戦は失敗していた。普通に生活していれば影くらい踏めそうなものだが、彼女の影を踏めた試しが無い。
自動的に発動し、僕の意思に関係なく効果を発揮する「影踏み」の力。
掌握下に置く事が出来れば瞳を見るだけで判別可能だが、彼女の瞳はいつ見ても濁りの無い瞳で、僕の能力にかかった事跡は認められない。
となると、彼女にも何かしらの秘密がある筈だ。それこそ僕の有する影踏みのように。
机の下で、拳を強く握りしめる。
諦める訳にはいかなかった。初めてなんだ、こんな想いを抱いたのは。
家族も友達も、通り過ぎるだけの人々も。自然と影を踏んでいて、そして自然と掌握していた。
解除方法は無い。皆が皆、黒い瞳で僕を見つめてくる。
けど君だけは、濁る事のない白く美しい瞳を僕に向けてくれる。
純粋に僕がまだ彼女の影を踏んでいないだけかもしれないけど、もしかしたら僕の能力にかからない体質なのかもしれない。
確かめる必要がある。
「放課後、またリトライしてみるか」
ボソリと。誰にも聞こえない声で呟きながら、視界の端で笑う天上明里を見つめつつ、僕は新たに目的を定めた。
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