3人が本棚に入れています
本棚に追加
スズメ・ドロップキック事件
これは、人間がスズメにドロップキックされた事件に関する記録である。決して、人間がスズメにドロップキックをしたという、動物愛護管理法に抵触しそうな話ではない。
住宅地に流れる人工の小川。そこは住民のちょっとした散歩道となっている。両脇には低木の植え込みがあり、水の音、風に葉が鳴る音が気持ちの良い小路である。
そこを、僕と、僕の嫁と、息子の三人で歩いていた。当時の息子は5歳くらいだっただろうか。彼は石が落ちていたら蹴飛ばし、蝶が飛べばその方へ近づき、興味のままに散策を楽しんでいた。
と、ある瞬間、息子が茂みへと入りそうになった時、近くを飛んでいたスズメがバタバタと羽の音を立てた。そして、息子がさらに歩を進めようとすると、息子の背中にドロップキックを施したのである。
その出来事はあっという間に過ぎ去っていったのだが、その通常ならざる残像は僕と嫁の頭の中で幾度かリピートされ、少しの時間を要してから僕と嫁に理解されるに至った訳である。
経験したことのないこと、というのは理解が追いつくのに時間がかかるものなのだろう。
やがて、僕と嫁は顔を見合わせ、「・・・いま、スズメがドロップキックをしたよね笑?」「・・・そうやんなぁ」と確認し合いクスリと二人で笑った。そして嫁は息子に、「あんた、スズメにドロップキックされたで」と声をかけた。
彼も何のことを言われたのかがはじめは理解できなかったようでポカンとした顔をしていたが、夫婦で繰り返してその状況を伝えることでやっと笑顔になった。
スズメが両足を揃えて、子供の背中をポンと押した(スズメからすると全力のドロップキックだったのだろうけど)。なかなかない経験である。
あとで三人で、「あれって、スズメの巣があの先にあったんだろうね」などと想像を膨らませながら納得をし合ったのだが、その事件は今でもスズメを見ると頭に浮かぶ、想い出の事件である。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!