変な読後感を味わう試み

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変な読後感を味わう試み

 ワシはスカンク博士じゃ。皆の者、ご機嫌はいかがじゃろうか。  今日は、読後感について実験をしたいと思っているところじゃ。ん?読後感?だから、あれじゃ。文章を読んだ後に感じる感情のことじゃ。  小説を読み終えた後というのは、よかったぁとか、しんみりするとか、そんな気分に浸りたいものじゃろう?  だから、たいていは良い読後感になるように話は展開するのじゃが、時々、あえて、後味の悪い読後感を作り出す作家さんもおるわのう。それも素晴らしい芸術じゃと、ワシは思っておる。  さて、今日の実験と言うのは、「中途半端な読後感」の小説を読んだらどんな気分になるんじゃろうか、というのを実験してみたいんじゃ。説明は面倒じゃから、早速行くぞ。 【例文1】夜道を行くお竹さん  成人したばかりのお竹さんは、運悪く、夜道をひとりで進んでいた。町外れに宿をとろうと、林の道を進んでいる。暗いので、提灯を掲げながら。  盗賊や追い剥ぎにでも出会ったらどうしようと、お竹さんは思案し続けている。変な眼差しを向けてくる男たちに出会うのも面倒だ。そんな感じだから、周囲から聞こえる物音に、いちいち、ビクッとしてしまう。  進みながら、お竹さんが気づいたことがあった。自分の身体に何かがピタピタと張り付いてくる感覚だ。すこしゾクッとする。ただ、しばらくすると、そのピタピタの気配もなくなってきた。 (おわり)ーーー  どうじゃ?中途半端だったじゃろう?では、次の例文にいくぞい? 【例文2】  勇(いさむ)はこれまで何事にも自覚なく生きてきたのだが、今日、はっきりと意識したことがあった。女性と結ばれたい!・・・いわゆる、性の目覚めだった。  ただ彼は、これまでそういった経験がなかったので、色々な事々をどう進めていったらよいのかが分からなかった。また、どんな相手と結ばれるのが幸せなのかも分からなかった。  ただ、遠くに目をやると、自分を何やら奮い立たせる姿が見えた。おお、これが、女性なのか!・・・ただ、その女性に近づいた時、勇は唖然とした。彼女が自分の10倍以上もの大きさであったからだ。  女性って、このようなものだったんだろうか・・・。 (おわり)---  どうじゃ。ちゃんと中途半端を感じてくれたじゃろうか。その答えがYesならば、ワシの試みも成功したということじゃ。皆もしっかりと、中途半端を楽しんでくれたじゃろうか。  ・・・。  ・・・・・。  うん・・・。ダメじゃ。ワシのほうがネタばらしをしたくなってしもうたわい。例文1も、例文2も、実は、チョウチンアンコウのことを語っておったんじゃ。  チョウチンアンコウのオスはメスの1/10ほどの大きさで、メスの身体にくっつくと、ヒレも内臓もなくなり、メスの血液を吸う寄生虫のような存在になってしまうそうな。精子だけを提供する存在になり果てるという。そして、その行為を終えると、メスの身体の一部に同化するということじゃ。  人間からすると、なんとも不思議な生き物じゃのう。勇君はお竹さんの身体の一部になってしまうのじゃな。  あ~。結局、今日は無難な読後感で終了となりそうじゃ。すまんのう。ワシもメンタルを鍛えて、出直してくるぞい。 おわり
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