やさしいくに

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やさしいくに

 やさしい国がありました。みんな心がおだやかで、怒るということはありませんでした。  国の中心にある丘には、優心木(ヤサシキココロノキ)と言うとても大きな木が生えていて、その乾燥葉のお茶を、国のみんなは毎日、飲んでいました。優心木の葉にはヤサシーという成分が含まれていて、その成分のお陰でみんなの心の平穏が保たれているのです。  ある日、交通事故が起きました。TK240君が大切な人と歩いていると、PO535さんの運転する自動車がそこに突っ込んできたのです。その事故で、TK240君の大切な人は亡くなってしまいました。  事故を起こしたPO535さんは仕事が忙しすぎて、寝不足だったようです。  寝不足なのは大変でしたねと、TK240君はPO535さんを慰めました。この国のみんなと同様に、TK240君もやさしかったのです。  その数日後、大変なことが起こりました。神のいたずらなのか、大きな雷が、優心木に直撃したのです。木は一気に燃え上がり、葉もすべて灰になりました。人々はもう、そのお茶を飲むことができなくなりました。  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  ある日、TK240君は道を歩いていました。おや、向こうからPO535さんが歩いてくるではありませんか。PO535さんと会うのは久しぶりです。PO535さんは相変わらず、とても眠そうにしていました。  TK240君は手に持っていたこん棒で、PO535さんの頭をなぐりました。その衝撃で、PO535さんは命を失いました。  TK240君はPO535さんの亡骸に語りかけます。 「PO535さん、忙しい仕事から解放されて良かったですね。これからはゆっくり、お休みくださいね」  そう語るTK240君の顔は、とてもとても、慈しみの深い、やさしさに溢れる顔でした。 おわり
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