3人が本棚に入れています
本棚に追加
妄想現実化
魔王様のご息女でいらっしゃるナタリ様が、また、侍女の私の部屋に入ってきた。彼女に悪気はないのだが、毎回、アレでは私の身が持たない。しかし、ナタリ様の口はゆっくりと開いていく。私は観念して、ひざまづき、身構えながらその言葉が来るのを待った。
「ねぇ、デュシャン。ホタテ貝って、あのクチをパクパクさせながら、海の中を泳ぐのですって。私、見てみたいわ」
ああ、やはり来てしまった!私は、自分の身体に戦慄が走るのを感じる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
先日も、ナタリ様が「手りゅう弾って、火薬が爆発する衝撃波で外殻が粉々に飛び散って敵にダメージを与えるみたいね。」とおっしゃって、私がそれに似たブランデーの瓶のことを想像してしまったがために、魔王城城内のブランデー瓶がすべて破裂してしまった。
魔王様には怒られるし、掃除には2日間ほどかかり、大変だったことを思い出す。
また別の日にも、ナタリ様が「車輪って、素敵な発明よね。あの形をしているから、コロコロとスムーズに移動できるのよね。」とおっしゃって、私が水車のことを頭で想像してしまったがために、国中の水車がゴロゴロと転がっていき、産業に少なからぬダメージを与えてしまった。
そう。ナタリ様のお話を私が少し違うものに見立ててイメージした時に、良からぬことが起こるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今回は何も想像しないぞ、妄想しないぞと思えど、イメージは泉のように湧き出てくる。・・・やがて、私の部屋にあった数冊の本と日記が、ホタテ貝のように空中を泳ぎだした。同時に、魔王城の階下から、大きな音が聞こえてきた。
「あら、デュシャン、面白いわ!本がホタテ貝のように泳いでいるわ」
ナタリ様は面白がるが、私はこれから起こる作業量を想像して気が滅入る。・・・恐らく、地下図書館にある数万冊の魔導書を元の位置に戻さなくてはならないだろうからだ。
「デュシャン、いつもありがとう。」ナタリ様はそう言いながら、ひざまづく私の額に軽いキスをして、颯爽と部屋から飛び出していった。
おわり
最初のコメントを投稿しよう!