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序章 ~あのときの悪夢
今でも夢に出てくることがある。
あれはわたしがまだ四年生のころ、今の両親と暮らす前のことだった。クラスで肝試しに行くことになった。現地は当時住んでいた町では有名な心霊スポットとなっていた廃墟の日本家屋だ。そこは今にでも崩れ落ちそうな佇まいではあり、幾度も建て壊し工事が行われたが、不慮の事故が起きて何人もがケガをしたり、病気になった人もいるというがあった。いつしかその日本家屋は呪われた場所だという話しが広がっていた。大人達からも近づかないようにと言われていた、もちろんわたしも近づくことはしなかった。いや、意図的に近づこうとはしていなかった。小さいころからわたしには他の人には視えないモノが視えてしまっていたから。まだ幼かったわたしはみんなにも視えているモノだと思っていた。しかし保育園のときの友達も親戚の人達も視えていないと知ったとき、自分は普通ではないと知ることになった。それからというものの、人と関わることが恐くなってしまっていた。
「ね、ねぇ、や、やっぱりここで肝試しするのやめようよ…」
クラスのリーダー的存在であった男の子に、わたしはたじたじになりながらも声をかけた。しかし男の子は、わたしの言葉に顔をしかめつかせた。それに体を震わせた。わたしの心は恐怖に支配されてしまった。
「うるせぇな! お前がつまらねぇこと言ってるからだろうが! 幽霊とはいるわけねぇだろ!」
男の子はずかずかと門を括り抜け、日本家屋へと近づいて行った。他のクラスメイト達もその場から放たれる雰囲気に恐がりながらも男の子のあとをついて行った。視えてしまっているモノをいないと証明するための肝試し。幽霊や妖怪の類は、マンガや小説の登場する存在でしかないだろう。わたし自身も視えない側の人間だったら、クラスメイトや親戚の人達と同じ考えだったかもしれない。わたしの幻覚や妄想だと何度願ったことだろうか。わたしも男の子達のうしろを追いかけるように歩いていた。男の子が奥の部屋の戸を開けたとき、異変が起きた。その部屋から黒い霧のようなモノが出てきて、男の子の手をなにかが掴み、中へと引きずり込んだ。クラスメイト達はパニックになり、その場から走って逃げてしまった。わたしは腰を抜かして、座り込んでしまった。男の子を助けに行かなければいけないのに、わたしは怯えてなにもすることができないでいた。少しずつ霧のようなモノが近づいてくるのが、わかった。そこから手のようなモノが伸びてきて、わたしの意識が徐々に遠のいで行った。
いつもそこで、汗をかきながら目を覚ます。
もしあのとき、わたしになにか力があったならと、後悔している。
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