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三日に一度来るはずの補給隊の到着が、一週間遅れていた。補給の遅れは飢餓と敗戦に直結する。エルフリーデは補給隊を出迎え護衛するために、八人の民兵を送った。そして二時間後、民兵の一人が血まみれで帰ってきた。
マスケット銃を持った完全武装の兵士、一個小隊を送った。
彼らが見たのは、そのような光景であった。
人間たちの死骸は、小山のように積み重なっていた。それがところどころでもぞもぞと動くのは、彼らにわずかに息があるからでなく、死体の上や隙間や、それぞれの腹腔のなかに、ネズミたちがいて蠢いているからであった。
死者たちの顔を判別することは不可能になっていた。ネズミたちは服に覆われていない露出した部分から、まず噛みちぎっていくからであった。顔に皮膚は残っておらず、噛み残した筋肉の間から白骨が露出していた。腐りやすい柔らかい部分、眼球や口腔内には、雑食性の昆虫が這い回っていた。
食事に夢中の小動物たちは、兵士たちの接近にも無頓着であった。
死体たちの服が焦げるほどに松明を近づけると、ようやく反応を示した。袖口や裾から、驚愕するほどの数の虫やネズミたちが溢れ出るように飛び出してきた。
いっとき地下道にネズミたちの海ができて、それはやがて引波のように消えていった。
兵士たちは補給物資を点検した。
食料は、小麦ひとつぶも残っていなかった。建設用の木材さえ食い荒らされていた。
民兵、御者、馬は、確認するまでもなく皆死んでいた。
小隊長は、これらのものすべてを焼却することに決めた。
兵士たちが死体の山のうえに油をまき、火をつけようとしたまさにそのときであった。
死体の山が、噴火するように炸裂した。
そしていくつもの死体をはねのけて、全身血まみれの丈高い男が立ち上がったのだ。
戦場のような状況の中で、その男の、すみれ色の瞳の美しさだけが場違いであった。
男は全身に傷を負っており、一言も言葉を発することなく倒れ、意識を失ったが、兵士たちに強烈な印象を残した。
疑問として残ることはいくつもあったが、とにかくそれが、エルフリーデが小隊長から受けた報告の内容であった。
彼女が男の名を知るのは、それから数日後のことである。
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