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足が迫る。ひたひたと。暗闇の中、僕に向かって。それはガラス越しに見える。やがてゆっくりとガラス戸が開く。スリッパも履かずにその足が出てくる。
やって来る。ひたひたと。僕のもとへ。ベランダの隅にうずくまった僕のもとへ。
兄ちゃんは何も言わない。僕の前にしゃがんでただ、僕の目を真っすぐに見据えている。
そのままどのくらい時間が経過したのか。ここはお外だよ。兄ちゃんは言った。
雨に当たったら死ぬ。だから僕は外には出られない。なのに僕は今ベランダにいて、そして雨が降るのを待っている。
待ちわびる。雨が降るのを待ちわびる。雨が僕に突き刺さり、そして兄ちゃんに突き刺さる、それを僕はじっと待っている。
たぁくん。兄ちゃんが言った。最後に聞きたい、と。
兄ちゃんを愛したか。
愛しているか、ではなかった。愛したか、と兄ちゃんは聞いた。
降ったのは雨ではなかったし、空から降ったのでもなかった。それは僕の目から滝のように降り注いだ。
きっと明日、警察が来る。
完
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