雨と兄

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 兄ちゃんはたびたびいなくなる。お仕事だよ、と兄ちゃんは言う。帰ったらたぁくんの食べたい物を作ってあげるからね、おりこうに待っておくんだよ、と。  僕も行くよ、と僕は言う。外の世界に行ってみたい。本の世界に広がる学校だとか、遊園地だとか動物園に一度でいいから行ってみたい。僕はこの家しか知らない。二つの部屋に、台所に風呂、それにトイレに洗面所、これだけだ。  この空間の中で僕はたくさんの絵本や童話や生き物図鑑などを読みふけり、国語や算数のドリルに励んできた。家にいる時兄ちゃんは僕の隣について丁寧に勉強を教えてくれたし、時にはギターや電子ピアノの弾き方を教えてくれた。図鑑に出てくる生き物達に会いたいと僕が言えば兄ちゃんは家で育てられる生き物をペットショップという所から連れて帰ってきてくれた。それは金魚やメダカだったりハムスターやインコだったりカメやザリガニだったり色々で、僕は毎日彼らの世話を焼き、彼らと話をして過ごした。  眠くなったら眠ったし、頭に物語が浮かんだらノートに書いてみたりもした。兄ちゃんの手や舌の動きによってもたらされる快楽を思い出しては自分の手でそれをして、ひとしきりそれにふけった。
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