【番外編】その男忠犬につき④

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【番外編】その男忠犬につき④

 キイイッッ。  ブレーキの音がして、黒塗りの車体が急停車する。  バタバタと左右のドアを開けて乗り込んできた二人の男は、それぞれ家康を間に挟む形で左右に座ると、顎を上げて運転席の男に発車を促した。  再び走り出す車内で、男の一人が家康をまじまじと見つめる。 「意外と肝が据わってんなあ。ブルブル小鹿みたいに震えてるのかと思ったぜ、組長さんよ?」  むさくるしい男二人に挟まれて、家康がぼそりと告げる。 「武田組か?」  車内で歓声が上がる。 「正解! よっく分かったねえ、お嬢ちゃま」  囃し立てる男達を軽く一瞥すると、家康はつまらなそうに視線を車窓の外に移した。 「武田も落ちたものだな」 「「ああんっ?」」  男達の声色が変わる。家康が淡々と続ける。 「誰を誘拐したか分かっておるのか?」 「ハッ、徳川組組長、徳川家康だろ?」 「……では、仕方ないな」  家康が浮かぬ顔をして、溜息をついてみせた。  男たちがイラッとしたのが、車内の空気で伝わってくる。 「おい、何が言いたい」 「いやはや、感心したのじゃ。そんな勇気ある男達には見えなかったもので……人は見かけによらぬとは、よく言ったものだ」 「あ?」  低い声で、男の一人がすごむ。  家康が愁いを帯びた目で、男たちを見る。 「徳川組の狂犬を知っておるか?」 「狂犬……?」 「お主ら、下っ端か。大方、今回のことも上の確認を取らず、出世の為に勝手に動いたというところか。なるほどな」 「何だとっ」  家康が困ったように、眉を下げた。やれやれといった様子で、左右に首を振る。 「一度標的にした獲物は決して逃がさず、骨まで噛み砕いて再起不能にする。時々、飼い主の言うことさえ聞かないで暴走するのでな、手を焼いておるわ」 「何を言っている」 「儂に手を出すということは、奴を敵に回すということだ」 「おいっ、何言ってんだこいつ!?」  男の一人が運転席の男に向かって上擦った声を出したのと同時に、走行する車体がぐらりと大きく揺れた。    ドンンッ。    バランスを崩して、S字に曲がりながら進む車体。車のスピードが落ちる。 「なっ、なんだああぁ?」 「ひ、左側に、バイクが」    運転席の男が、蒼白な顔で悲鳴を上げる。 「あれはっ!」    ドンッッ、ドンッッ。  猛スピードで走行する車の左側に、一台の黒い大型バイクが見えた。バイクは意図的に、車の車体に己の車体をぶつけてきている。
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