第二十章 天狗の子守歌 五

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「山竜、来てくれてありがとう。このバカ鬼、役立たずだから…………」  山竜は、言葉を発せるほどには大きくなかったが、それでも鰐くらいはあった。それに、触れると少し暖かく、いるととても安心する。 「山竜!!!」  俺が山竜に抱きついて頬擦りすると、どこからか咳払いが聞こえてきいた。 「咳払い??」  どこから聞こえているのだろうかと、音源を確認してみると、携帯電話からであった。 「ここからでも、通信は可能なのか……」  この状況を月森に連絡すると、どこから知ったのか、立哉からも連絡が来ていた。もしかすると、先程の咳払いは、立哉だったのかもしれない。 「立哉、又、スパイウェアみたいなものを仕込んだな…………」  立哉はきっと、携帯電話を通して、こちらの様子を探っているのだ。 「立哉、何か用か?」 『周辺の景色を送って欲しい。地形を確認する』  今は夜で、しかも闇の中だ。周囲を見ても、景色など無い。 「真っ暗だぞ」 『それでも構わない』  立哉は、この界では最強の水竜で、周辺に水があれば、地形を知る事が出来る。だから、この界には、空気中にも水分があるので、知らないものは無いだろう。それでも立哉は聞いてくるので、ずっと見ていると言いたいのかもしれない。 「立哉、鬼界にも水分があるだろう」 『…………それが、水を感じない』  鬼界には、火の気が強く、水を感じないらしい。そして、それは朽木も同じで、俺が朽木の傍にいると、立哉は水で俺の存在を確認する事が出来なくなるという。 『水瀬、こっちには匠深の情報』 『こっちには、パズルの情報』  そして、他のメンバーも加わり、ミーティングのようになってしまった。 「了解」  車の中は平気だが、外は暗く、竜でも見通す事が出来ない。それは、車のライトを付けても同じで、全く前が見えなかった。  しかし、周辺にある闇は、俺を守っている感じがする。その事を告げると、月森からコメントがあった。 『闇はきっと境界に存在していて、補正の役目も持っている。こっちの界は、竜王のもので、闇は竜王に従っている』
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