第二十章 天狗の子守歌 五

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 俺は、闇がどことなく可愛く思えてきた。そして、ついナッツなどを与えてしまった。 「月森さん、匠深は、複数の鬼と性交していました。鬼は人間の男を情人にします」  これは主に、闇から貰った情報だ。 『情人ね…………人間の雄は子供を産まない。だから、界も許しているのだろうね』  鬼という存在の雌は非常に強く、雄では敵わない相手らしい。そして、繁殖の時にしか性交しない。だが、鬼の雄は、年中発情しているような存在だった。 『鬼は性欲の象徴でもある』  そして、鬼は人間の男を攫い、自分の妻になるように時間を掛けて仕込む。 『天狗というのは雄の象徴で、長い鼻は雄そのものだ。人は雄の象徴を顔に付ける事で、願いを掛ける……』  この土地に存在する鬼は、夜の営みの象徴でもあるという。そして、修験者としてではなく、一般市民も雄として、いつまでも存在していたいと山に願いを掛けた。 「でも、鬼は人を攫う…………」 『天狗の鼻。あれは、慣らしに使う道具という説もある』  そこは、まだ詳しく調査しているわけではない。 『しかし、山を買い取るという、朽木さんの行動は正解です。鬼との場が繋がっている山を、変に開発したら、大惨事になりそうですよ…………』 「…………そうだな」  立哉は、不動産屋としての視点で、俺にアドバイスしてきた。俺も、立哉の意見には賛同する。そういう面では、立哉と俺は、意見の一致が多い。 『それで、山の買い取りは分かったけれど、場というのは何だ?それと、その場という鬼との繋がりを残しておいたら、攫われる人間が後を絶たない可能性があるだろう』  今度は安在が、画像付きで割り込んできていた。その画像は風呂上りで、意外にもしっかりとした筋肉が見えている。こうして改めて見ると、普段の安在は優しい雰囲気だが、本当はしっかりと雄々しい男性だ。それに、タンクトップ姿が新鮮だ。 「……鬼の場は、ゲームが存在する限り、きっと発生します。今までも、人間の傍に鬼はいたと思います」 『鬼の伝説も多いからな…………』  だから、鬼をどうこうしようというのではなく、ただ、この隠れ鬼というゲームを終了させる事を考えた方がいい。 「俺は匠深に会いました。普通に、俺には匠深が見えているし、触れる事も可能です」  だが、匠深がこの界に存在しているのかといえば、それは違う。俺が、向こうの場に行けたという事が正解かもしれない。 「でも、匠深はこの界に存在しているという感じがしません」
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