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第二十五章 夜に沈む森 五
俺と朽木が、立哉をソファーにして寛いでいると、金太郎が食事を運んできた。
鬼というものも不思議だが、金太郎が接待してくれているのも、かなり不思議だ。すると、金太郎は俺や立哉が、鬼の場に来てくれた事が嬉しいのだと説明してくれた。
「酒は飲める?」
「浴びる程に飲みます。特に立哉が」
金太郎は、酒樽を担いで持ってきて、立哉に酒を勧めていた。立哉は遠慮なく酒を飲んでいたが、俺は車で来ているので控えなくてはいけない。だから料理を食べてみたが、かなり大雑把な味がしていた。素材は良いので、俺にキッチンを貸して欲しい。
「立哉、美味そうに飲むなあ」
「実際、物凄く美味しい酒だ」
俺も飲もうとすると、立哉は酒樽を尻尾で押さえてしまった。
「佳樹はダメ。まだ子供だし、車で来ているから」
「車は認めるが、子供ではない」
俺と立哉は、同じ年だ。
だが、車で来ているので、酒は我慢しておこう。でも、物凄く美味しいというのならば、少し貰って持って帰りたい。
「金太郎、酒を少し持って帰ってもいいか?」
「いいよ。立哉君に、樽で持たせておくよ」
しかし、何をお返ししたらいいのか分からない。金太郎に好物を聞いていると、又、ここに来てくれればいいと言われてしまった。
「竜王が鬼の村に来る…………それは、夢みたいな事だ」
「そうか?」
そんなに凄い事ではないだろう。
「竜の蒲焼を作ろうとかしていない?」
朽木の腹が鳴り続けて、俺を見て更に大きく鳴るのだ。
「確かに食べたいですけどね…………食べたいくらいに、愛おしいとも思う」
会ったばかりの金太郎に、愛おしいと言われてもピンとこない。しかし、朽木は何度も頷いていた。
「そう!恋する事は瞬間で、時間は重要ではない!」
「でも、愛に昇華させるには、長い時間が必要になる」
この問答は、回答などない。好きになるのにも、時間がかかる場合もある。俺と立哉は、産まれる前からの付き合いだが、恋というのではなかった。でも、かけがえのない親友で、それは愛にはなっている。
しかし、万年発情期の金太郎と朽木が、愛と恋について熱弁しているのを、俺は冷めた目で見ていた。
この鬼という生き物は、かなりロマンチックだ。竜は恋もするが、常に子孫を残すという目的を持っている。そういう面では、竜はリアリストなのだ。
「………………立哉。ここは、何だ?」
ここは、俺の界と言っていい場所なのだろうか。それとも、鬼界として認めるものなのだろうか。
「今、こうだと、決めなくてもいいでしょう」
「……そうだな」
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