第二十六章 悲しみの鬼

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 すると、朽木の兄である幸助は、性別は些細な事で、全く問題にならないと言っていた。 『俺の妻、忙しいから子供は要らないとか言う…………確かに、女将は忙しい…………俺達の母親も、忙しい人だった』  しかし、祖父母や母親の妹が、朽木兄弟の面倒を見てくれていたので、寂しいとは感じた事がなかったという。 『でもさ、俺は子供が欲しい。それも、俺達と同じく、三人がいい』 「三人は多いですね」  それでは、朽木は普通に結婚して、早く子供を作った方がいい。 『でもさ、その前に、俺達の弟…………俺は、もう一度、匠深に会って話がしたい』  それは、匠深に人として戻って来いと言っているのだろうか。 「その件もあったか…………それでは、これから行きます」  その件とは何の事だろう。 『おう!来い!』  しかし、簡単に行くと言ったものの、夜の山道はかなり怖い。ライトを付けていても、足元が見えていないので、踏んだり、飛んだりと忙しい。  そして、喋ると舌を噛んでしまうので、黙って運転するしかない。  やっと道路に出ると、俺はとても疲れてしまい、朽木に運転を代わった。 「水瀬、山道、普通に走っていて驚いた」 「…………立哉に先に行って貰って、誘導するように頼んだ」  立哉がいなかったら、遭難していたような感じがする。  そして、舗装された山道を下ると、朽木旅館の看板が見えてきた。朽木は看板を無視して進むと、そのまま朽木旅館を通り過ぎ、迂回してから再び旅館に近付いた。 「この道は何だ?」 「旅館ではなく、兄貴の家の方に来たのです」  その家というのは、新婚の住む家ではなく、車庫のようなも所だった。そして、車庫に車を入れると、横で幸助らしき人物が、コーラを飲んでいた。 「お帰り、佐久弥」 「ただいま」  朽木が車から降りたので、俺も降りると、幸助が走り寄ってきて、俺に抱きついた。 「この子が、水瀬君?可愛い!!!!!!!!!!!!!!」 「可愛くありません」  それに、山登りして風呂に入っていないので、かなり汗臭いだろう。 「兄貴、水瀬に近付くな!」 「佐久弥はね…………毎日彼女が違うとか、女性を百人は妊娠させていると言われてきたけど…………実際はピュアでね……母親に恋人だと紹介した人はいない」
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