第二十七章 悲しみの鬼 二

2/7
前へ
/73ページ
次へ
 すると金太郎も、昔は人だったのだろうか。 「金太郎は人だったかな?」  しかし、どう見ても、金太郎は鬼だった。 「多分、その頃は、鬼も人も、この場に共存していたのだと思うよ。だから、金太郎が人だったのではなく、鬼も住んでいたという方がしっくりくる」  金太郎には黒髪の美しい妻がいて、子供は五人ほどいた。そして、その末っ子が朽木旅館を継ぎ、現在に至る。 「他の四人は?」 「四人の姉と末っ子長男だった。四人は、様々な家に嫁いだ」  金太郎は不思議な人物で、物凄く強く、そして美しかったという。そして、この場所に温泉を見つけると、家を建てた。 「金太郎を慕って人が集まって来たが、金太郎自身は、村ではなく山に住むと言った」  そして、山の民として、人との交流をしていた。だが、人が山に行っても、金太郎の家に辿り着く事はなかった。 「匠深は、鬼の集落にいたのか…………」 「そうだな………………」  会話はのんびりとしているが、内容は深刻だ。  隠れ鬼というゲームだったので、鬼を捕まえれば終了になると思っていた。しかし、実際は鬼を捕まえると鬼になり、ゲームが継続されてゆく。 「匠深は鬼を捕まえて、鬼になりたかったのか?」 「確かに、鬼になる方法を、知っていたような気がする…………」  匠深は、人として生きていた場合は、既に寿命が尽きていた。そして、鬼になったので、元気に動けるようになった。 「だけどさ、匠深が鬼になっても、それは嫁のほうで、それはそれで長生き出来ない」 「鬼嫁は、ここにもいるけどな」  幸助は笑っているが、それを奥さんに聞かれたら不味いだろう。それに新婚だというのに、鬼嫁はない。 「兄貴、嫁の尻に敷かれているからな……」  幸助は、一般人なのに雑誌で特集が組まれ、写真集が出るほどの人気だった。それは結婚した今も健在で、女性客が多いらしい。むしろ、結婚した後は、客層が広がって、年配のファンも来るようになったという。 「よく俺が嫁に怒られている動画が流れていて、それが連載になっている」 「そんなに怒られているのか…………」  しかし、朽木も凄いが、幸助もかっこいい。二人は似ているが、別人で、違う魅力を持っている。幸助は、やんちゃな長男という雰囲気で、放っておくと、何をしでかすのか分からない。  朽木も何をしでかすのか分からない雰囲気はあるが、どちらかというと、密かに世界征服でもしていそうだ。 「なあ、佐久弥。ここに水瀬の店を出してさ……こっちで暮らさないか?それで、水瀬に女将代理をして貰って、リコは子供を育てる」  リコというのは、幸助の妻の事らしい。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加