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朝、目覚めてみると、間近に朽木の整った顔があって、驚いて飛び起きそうになった。だが、狭い車内だったので、慌てて朽木が抱き寄せた。
「おはようございます」
「おはよう、朽木」
朽木は先に目覚めていたのだが、俺の寝顔を見ていたらしい。
俺は朽木が先に起きていたので、幾分、安心した。この朽木は、とても寝起きが悪く、そして寝惚けも凄いのだ。
「朝食を作る。それから、朽木が言っていた神社を確認してくる」
俺が車の外に出ると、昨日、車を囲っていた闇は無く、清々しいまでの朝だった。そして、顔を洗うと、簡単な朝食を作った。
「匠深は…………」
「朝、電話で確認すると、匠深は家に帰っていました」
そもそも、匠深が出掛けた事も家族は気付いていなかった。
「…………そういうものか」
一晩中、匠深は自分を囲っていた鬼達と、激しい性交を続けていたのだろうか。その体力は、本当に鬼だ。
「今は、それは、まあいいか…………それよりも、場所の確認」
しかし今は、匠深の状況をどうこうしている段階にない。
「そうですね」
朝食を済ませると、朽木は遊んでいた場所を説明してくれた。
「この山の全部が、俺達の遊び場でした。何故か俺達は、生まれた時から体が丈夫で、大人よりも体力があり、天狗と呼ばれる程に、身体能力が高かった」
それは朽木兄弟だけではなく、ハンザの兄弟も同様で、ハイハイから驚異的に動いていたらしい。唯一違っていたのは匠深で、生まれた時から病弱だった。
「俺とハンザは、小学校低学年の時には、菓子を買う為に、この山を越えていました。ここ、流石に頂上付近は険しいのですけど…………」
「既に険しいけど……」
今も、朽木は道だと言って、垂直に近い岩場を登っていた。しかも、手を使わずに、足だけで登っているので、普通の道だと思っているのかもしれない。
「この道が修験者の作ったものとされていて、所々に修業した場所があります」
「これは、道か?鹿だって、もう少しまともな道を通るぞ……」
道と言われても、崖に少し筋があるだけではないのだろうか。当たり前に朽木が歩いているが、横を見ると切り立った崖で、落ちたら死ぬような高さだ。
修験者は、わざと命に係わるような道を通り、死を身近にさせる事で、生きている事を自覚させていた面もあるという。確かに、これだけ道が細かったら、神経を集中させていないと危険だろう。
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