第二十章 天狗の子守歌 五

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第二十章 天狗の子守歌 五

 朽木の故郷に来て、隠れ鬼が始まった地を確認しようとしていたのだが、夜になって鬼の場に引き込まれてしまった。 「隠れる、逃げる、追いかける…………」  それだけの条件の遊びから、この鬼の場が出現してしまう。そして、参加人数が多いほど、鬼が強くなってゆく。 「…………鬼を捕まえれば、ゲームは終了するのか?」 「やはり、匠深が鬼なのですか?」  しかし朽木は、弟の匠深の姿が見えないどころか、触れる事もできない。匠深が鬼だったとすると、朽木には永遠に捕まえる事が出来ないのだ。 「少なくとも、匠深は鬼側にいるな…………」  夜にしか、鬼の場は現れない。そして、夜になると、匠深は鬼の元に行き性交する。 「夜は、人は眠ってしまう場合が多く…………集合体としての人の気が弱まる」  人の気が弱まると、鬼が入り込み易くなる。そして、圧倒的に鬼の方が強い。すると、昼にしか、匠深を捕まえる事が出来ないのかもしれない。 「俺と朽木は、夜の方が本質に近い存在になれる」 「人の気が弱くなるからですね」  昼間に行動すると、やはり人間という域という枷が出来ている感じがする。  しかし、匠深を追い掛けて山に行ってしまったので、かなり眠い。この状況で眠るのは勇気がいるが、それでも、瞬きした間に眠りそうになった。 「水瀬、眠ってもいいぞ。俺が見張っておく。俺は、一週間くらいならば眠らなくても平気だ」  俺も竜なので、数日ならば眠らなくても平気だと思うのだが、今はとても眠い。  朽木が運転席に座っていたので、俺は助手席のシートを倒した。すると、朽木もシートを倒して、俺の顔をじっと見つめていた。 「美味しそう…………」 「美味しくない………………」  朽木の目は優しく、俺を見守っている雰囲気もある。だが、俺の方が年上だ。 「朽木、横になると眠るそ」 「…………大丈夫です」  そして、眠らないと言っていた朽木が、先に爆睡していた。 「え???????眠った??」  朽木が眠ってしまったら、俺は起きていなくてはならない。  車の周辺は鬼の場で、何が起こるのか分からないのだ。 「朽木………………本当はバカだろう…………」  しかし、朽木が眠ったお陰で、俺は周辺の竜の気配を探る事が出来た。 「鬼の場には、竜が存在していないのか…………?」  だが、山の周辺には、住み着いている竜の気配がしていた。それに、心配してやって来た、山竜の気配もしている。 「山竜、いるのか?」  俺が山竜を呼ぶと、山竜は鬼の場まで入ってきた。 「え?ここは、出入り自由なのか?」  すると、入るのは簡単だが、出る事は難しい事が分かった。だから、地元に住んでいる竜でも、鬼の場に入る事がないという。 「山竜、傍にいて!」  竜が近くにいると、とても心が安らぐ。それは、俺が宝珠だからかもしれない。
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