68.この人は怖くて嫌だよ

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68.この人は怖くて嫌だよ

 ひらりと下りてきた人は、背中に羽があった。鳥みたいに大きいんだ。でも腕もある。鳥は腕の代わりに羽があると教えてもらったの。あの人は両方あるから、狡いかも。 「ぷっ! 確かに狡いな」 「狡くない!!」  笑ったメリクのお膝に座り直した。向かい合って座る。そうすると危なくなった時にすぐ助けられるんだよ。僕はまだ強くないから、何かあったらメリクの邪魔にならないようにする。ぎゅっと首に手を回して、背中に腕が回ると安心した。 「いい子だ、イル」  立ち上がったメリクがぐぐっと大きくなる。舟の上にいるけど全然揺れなかった。僕の知ってるメリクより、ずっと大きいし腕も太い。でも顔を見上げたら、笑ってくれた。大丈夫、これもメリクだよ。僕の知ってるメリクだから安心。頬をすり寄せた。 「愛し子への攻撃はご法度だ。お前が決めたルールだろ」 「アドラメリク、そなたへ攻撃した」 「愛し子が膝にいるのに? もし逸れていたらお前の首も落ちていたぞ」  首が落ちる? 体は落ちないのかな。それは痛いと思う。自分の首が心配で、そっと手で撫でた。大丈夫、メリクもくっ付いてる。心配だから、メリクの首も手でなぞった。 「ああ、落ちるのはアイツだけだ」 「そうなの」  空にいる人と話すメリクが、僕を見てくれた。黒髪を撫でるメリクの背中に、いつもより長い髪が揺れている。普段は肩の下までなのに、今は足の方まで長かった。それにキラキラして綺麗。そこで気づいて周囲を見回す。  精霊がいない。 「メリク、たいへん! せいれい、おちちゃった」  僕の大切なお友達なのに、精霊いなくなった。さっきのドカンで落ちたかもしれない。早く助けてあげないと、痛くて苦しいかも。鼻を啜りながら訴える。メリクはきょとんとした顔をした後、長い黒髪をばさりと揺らした。 「ほら、ここにいる」  本当だ! 髪の毛の間に隠れてる。ほっとした僕が手を伸ばすと、精霊が僕の方へ寄ってきた。良かった、ケガしていないみたい。 「そんで、なんだっけ? 俺の愛し子狙いなら……」 「違う。お前が滅ぼした世界の話だ」  滅ぼした? メリクの顔が怒りに染まる。いつもと違う表情だし、なんだか怖い。でもメリクだから平気。腕に力を込めて抱き着いた。その背中をぽんぽんと優しく揺らすのは、いつものメリクだった。なのに、滅ぼすの響きが怖い。 「イルに聞かせる気はない」 「いや、その子が原因のはずだ」 「俺が決めた、俺の管理する世界の話だ。成熟し腐った世界は消えるのが、ルールだろ?」 「まだ早かった」  空にいる人は、真っ赤な髪をしていた。目の色も同じで、睨んでくるのが嫌だ。見ないようにメリクの首筋に顔を埋めた。黒髪にいる精霊が僕の頬を撫でたり、優しく擦り寄ってくる。この人は怖くて嫌だよ。そう願った僕に、メリクはまたチッと音をさせた。 「愛し子への攻撃については、後で代償を払ってもらう。ひとまず消えろ」  ここは俺の世界だ。そう叫んだメリクから、凄く大きな光が飛んだ。眩しくて目を閉じた僕がそっと開けると、赤い髪の人はもういなかった。
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