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1.博多どんたくみなと祭り
博多どんたくは大型連休期間中に開催される。
その起源は馬に乗った三福神と、松囃子と呼ばれる一行が預かり笹という縁起物を結び付けた笹を気前よく配りながら町を練り歩く神事だ。
「今の市長になってからどんたくのときに雨が降っとらんやろう」
「しばらくは市長でおってもらわんといかんったい」
今では大通りを全面閉鎖して実施され、市民参加の大パレードを目当てに二百万人もの観客が各地から集まり動員数日本一の祭りとなっている。
謙太郎は預かり笹を松囃子の中にいた顔見知りの青年から受け取った。
「白石さん、いい天気になりましたね」
謙太郎の師匠の博多人形師である五藤の知人でやはり博多人形師の白石だ。
「五藤先生のところの謙太郎君か。背がまた伸びたんじゃないのか?野球部は続けてるのかい」
「高校三年ですから引退しましたよ」
「もう受験か。博多人形師の養成講座には来るんだろう」
「まだ進路で悩んでて……」
「そうか。実は五藤先生に頼みたいことがあるんだ。工房におられるかな」
謙太郎がうなずくと、「そうか。じゃああとで連絡してみるよ」と言って行列の後ろから押されるようにして白石は歩きだした。
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