24人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
開けっぱなしにしていた玄関から松囃子の唄が聞こえてきた。
「あっ。私、戻らなきゃ!皆さん、改めてお礼にうかがいます」
夏蓮は靴を履くと頭を勢いよく下げて背中を向けると走り出した。
少し足をひきずるようにしていて謙太郎は「走ると転ぶぞ!」と声を張り上げた。
五藤は夏蓮を見送りながらほほえんだ。
「突風みたいな子やな。芸妓さんになったら謙太郎に人形を作ってほしいとか、いいことを言う」
「無理です、そんなの……」
「でも約束しとったやないか。わしはこの耳ではっきりと聞いたぞ。なあ、恵里菜ちゃん」
「私もこの耳で確かにはっきりと聞きました」
「あんな口約束、すぐに忘れてしまいますよ」
「博多の男がおなごさんと交わした約束を違えたりしたらいかん」
五藤は謙太郎がもらってきた預かり笹を手に取って作業場の神棚に捧げた。
「嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるけんな」
そして作業場のガラス棚に並んでいる作品を見わたした。
「それに、わしの作る人形に似てたやないか。あれは、べっぴんさんや」
最初のコメントを投稿しよう!