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沿道の人々の目をひときわ引いているのは松囃子に同行している黒裾引きの正装で博多帯を粋に締めた博多芸妓たち。
彼女たちが現われると沿道から歓声が上がった。
謙太郎は預かり笹を『五藤博多人形工房』と刺繍された作務衣の襟首に突っ込むとスケッチブックを開いた。
初夏の日ざしを受けて日本髪が輝き、だらりと垂らした白地に朱色の博多帯が左右に揺れる。
省略せず細部まで見極めスケッチする。
自分が何に注目して、何に感動したのかを明確にしなければ人形は作れない。
次の展覧会まであと半年。
五藤が工房にこもりきりでいた謙太郎に「博多どんたくに行って預かり笹をもらってきてくれんね」と頼んだのも、焦っている謙太郎を見かねてのことだ。
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