モブ女、涼花(すずか)の日常

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モブ女、涼花(すずか)の日常

朝の8時24分、殺人的に混み合う通学列車を降り、他の降車客に混じってダラダラとホームを歩いていたら、後ろから何者かに抱きつかれた。 首筋に当たる、ポヨンとした感触。 鼻孔くすぐるビクトリアシークレットのエロい香水の香り。 ま、毎朝のことなんだけど。 「朝から刺激強いんだわ」 「なんのこと?」 「そのポヨンポヨンのお胸」 抱きつかれたまま指摘してやると、アハっというテンプレ通りの笑い声と共に、生温かい息が耳に掛かる。 クラスで唯一、私の変態趣味を理解してくれていて、妄想日記の読者でもある、美桜(みお)だ。 「ってか、昨日の日記。キモすぎるんだけど」 ご指摘の通り。確かにキモさしかない。 抱きつかれたまま頷くと、美桜(みお)が、更に畳み掛けてくる。 「店長、ブサキモのくせに自信満々とか、爆破案件じゃね?」 「ん……」 私が曖昧に頷くと、美桜(みお)は腕を解き、私の両肩に手を置いて耳元で囁いた。 「でも、涼花(すずか)は変態だから、あんなキモいシーンを想像して濡らしてんでしょ?」 「うっ」  「店長に犯されたいとか思ってるんでしょ?」  「ううん、実際に犯されるのはヤダ。でも、想像すると、たぎる」 「完全に変態だね」 「否定出来ない」 そうなのだ。 あの日記は、ただの私の妄想。 実際の店長は顔が若干キモいだけで、至って優しいオジサンだ。 セクハラどころか、いつも気を遣ってくれている。 そもそも、バイトは他にも居るし、制服だって、普通にTシャツとジーンズにエプロンだし。 エロが入る要素は無い。 店長がもし、あんな日記をネットで公開されてるなんて知ったら……。 ま、卒倒するだろうな。 読んでも自分の事とは気付かないかもだけど。
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